猫と髭と冬の綿毛と


「体調面など気を付けて下さい。それから、咲山を傷付けるような事が有れば命は無いものと思って下さい」

冷静に嫌味を含めた口調も、今日は懐かしさと一緒に解けていく。

「わかってるよ……」

互いに店から抜け出したところで、別れ際に彼が告げてくる。

「それと、ささやかですが、御祝いを致しました。気兼ねせず、ご自由にお使い下さい。それでは、失礼致します」

幾らの金額を振り込みしたのか想像も付かないが、様子から見れば、此方が思うより遥か上を行く気がした。

それから拠点に帰り、部屋に入ると、彼女が器用に万華鏡を覗いていた。

「ただいま」

「あ……。お帰り、お髭さん」

細い指から落ちそうなカメラを優しく取り上げ、静かに机の上に置く。

興味を無くした途端に彼女はベッドに腰を掛け、徐に左手を眺め始める。

隣へ寄り添い、身体の温もりを感じながら確かめた。

「重くない?その……、指輪」

軽く抱き締めたまま、肩に顔を乗せ、耳を傾ける。

「……愛の重さは別」

いつも彼女は唐突に自分の胸を締め付け、感情を惑わす。

それは、おそらく、まだ恋をしてるせいかもしれない。

窓の外では深々と雪が降り、気持ちを隠すように白さが重なり続けた。