猫と髭と冬の綿毛と


それはカメラマンとして駆け出した頃。

若い女性と言うよりは"女の子"に近いが、情けで飾られた写真を前に、ただ眺めていた。
その様子が何となく気になり、客入りの悪い展示場の片隅で飴を口にしたまま、ぼんやりと捉えた。

当時の相手が煙草や煙りに煩く、単なる気休めで購入していたものの、持続性や効果はない。
"この子が帰ったら"などと考え、暫くは見ていたが、知る限りでは一時間ほど状態が変わらないまま。

夕暮れの陽射しが長い髪の上に当たり、天使の輪のようで綺麗だった。

余りにも見続ける姿に、思わず現物を外して渡したが、黙って受け取る手が子供染みたように感じ、ポケットから幾つか飴も出して一緒に押し付けた。

遥か昔の思い出に、些細な言い合いが重なる。
たった一枚の画像が、彼女の合図だ、と今頃に気付いた。

髭が特徴のペンギンが可愛らしく水槽の中を優雅に泳ぎ回り、何気なく下から覗き込む拍子にボタンを押しただけで、捻りのない一枚。

その水族館で夏には様々なイベントが催され、花火大会やプラネタリウムと万華鏡展が行われていた。

ようやく全てが一つに纏められていく。

日比谷が彼女に見せた資料が切っ掛けかもしれないし、誰かの悪戯に惑わされたのかもしれない。

それが、運命と言う名の下にあるならば、必然よりも偶然に起こされた気がする。

もはや、言葉にすることなど出来ない。

ただ、愛しくて、憎らしい。

本当にどうしようもない恋だった。