猫と髭と冬の綿毛と


それから海外へ戻ると、徹夜することが増え、部屋には寝に帰るだけの日々を過ごした。
忙しいことはともかく、いつの間にか煙草を口にする回数が減り、飴をくわえるほうが多くなってる。

婦人に洗濯物を預けたとき、ポケットから落ちたのが切っ掛けだった。
それが宿舎の家族に知れ渡ると、子ども達が様々な形の飴を持ち寄り、気付かぬうちにガラス瓶へ放り込まれ、蓋も閉まらないくらいに詰められてる。

今まで自分を変えることさえ考えもしなかった。

人生に変化は付き物だが、何が起こるかなど想像しても、どこへ矛先が向くかは分からない。
それでも、以前より手応えを感じてる。もう少し頑張れば、仕事の目処が付きそうで、フィルムの整理や写真の選別をしながら、穏やかな時間に身を委ねていた。

ここで過ごすのは残り一ヶ月程度で、出会いの時に長く感じた月日を越そうとしている。
彼女からの連絡は数回ほどしかなく、此方も同じで内容も大して変わらない。
けれど、彼女は少し太って、お腹が出て来た、とぼやいていた。

これほどまでに想う気持ちを、言葉にするには足りない。
必ず、どこかの拍子で考えてる。

ふと窓の外を見ると、雪が舞い降りていた。
白い綿のような塊が窓の淵に落ちて消えていく。

冷えた空気を感じながら彼女の体調を案じ、再び作業に取り掛かる。
あとは纏めるだけのところで携帯が鳴り、確認もしないままで応えた。

「はい」

どうにか片手で写真を纏め上げ、既に味のない噛んだ状態の棒を捨て、電話の向こうに耳を傾けると、街の雑踏に居るような、そんな雰囲気がしていた。