猫と髭と冬の綿毛と


すると、彼女が大きな息を吐き、言葉を探すように、少しずつ零し始める。

「子どもが、出来たの……、間違いなく、お髭さんの子ども。私、産む。何が有っても産むから……」

それは、胸を撫で下ろす間もなく、実感よりも嬉しさが溢れ出していた。

「なんで、今言うんだよ……」

けれど、信じる気持ちとは別の感情が咄嗟に口走る。

「ごめんなさい……」

結局は彼女を困らせた上で、気の利いたことも言えず、どうしようもなく、情けない自分を露呈しただけだった。
ふと、左手に輝く七色の光を目にして、震えたままの様子に気が付く。

「勘違いすんな……。知ってたら、昨日、あんなことしなかった……」

彼女は隣で静かに首を横に振って応えた。
その肩を優しく抱き、頭を寄せて髪を撫でながら確かめる。

「何ヶ月?」

「……二ヶ月と少し」

応えに頷くように額へ唇を押し当て、思いつくままに返した。

「超即効で仕事終わらせて帰ってくる。その子のためにも」

ようやく捉えた彼女の顔が今まで以上に愛しく感じ、そのまま眺めたいところだが、出発の便は待ってくれない。

「ごめん、そろそろ行くよ」

寂しげに頷く様子を軽く抱き寄せ、互いに声を掛け合う。

「いってらっしゃい、お髭さん……」

「行って来る」

ただの挨拶を交わしても、想いが留まることはなく、心が逸った。