彼女は暫く指輪を眺めたあと、手を下ろし、身体を寄せながら呟く。
「あのね……」
やはり、重かったのか、など今更聞くことは出来ない。
隣では次の言葉を探すように、ただ呼吸を繰り返していた。
「……なに?」
恐る恐る応えたとき、細い指先が横を通り抜け、耳元へ唇を当てたまま、鼓膜を震わす。
「お髭さんが欲しいの……、とても」
その言葉は、今は反則だ。
この状況で触れてしまえば、揺らいだ気持ちの片方だけに必ず傾く。
そこから弊害が起こるのは明らかで、それだけは避けたい……。
「すき」
けれど、彼女は躊躇わず、此方の理性を崩した。
「知ってる……」
優しくキスをして、深く絡め合い、熱を這わせながら、吐息を夢中で追い駆ける。
互いの声が狂おしいほどに求めていた。
細い指先が背中を微かに裂き、なぞるように降りていく。



