ふと目が覚めると同時にドアが開く音を聞き、ソファーから重い身体を起こして、彼女へ近付きながら迎える。
「おかえり……」
「ただいま……。ごめん……、シャワー浴びてくる」
けれど、彼女は伸ばした腕から滑るように通り抜け、此方の返事も聞かずに浴室へと向かって行く。
仕事の疲れか、後日に控えた帰国の件を考えているのか、どちらにも見えるが、元気がないのは確かに感じる、
それは、自分も同じで、言葉にするべきだ、と分かっている。
しかし、僅かでも拭えたなら、と想うのは軽薄なのかもしれない……。
浴室から部屋に戻ると、彼女は赴くままに寝室へと歩き出す。
「璃乃」
「なに?」
ポケットの中で右手が箱を握りながら汗を掻いていた。
彼女はベッドの縁へ腰を下ろした状態で、訝しげな顔をしながら此方を見つめてる。
どうにか心拍数を整えて隣へ腰を掛け、細い手を取り、ゆっくりと嵌めていく。
目の前では眺めたまま、呼吸すら聞こえず、狼狽えながらも何かと探して吐き出す。
「暫くは、行き来するけど、約束する、絶対帰るから」
覚悟を決めたと言うのに、出て来たのは甘さもない淡々とした口調だった。



