二次会へ流れる人々に手を振り、残る友人に帰国の打診をしようと声を掛けたが、元々は二年から三年程の期間しかない、と種明かしをされ、日本でも依頼が絶えないことから関係者と交渉をしていたところだ、と締め括られた。
けれど、現状は仕事を残したままで明日の朝には飛び立つ。
暫くは行き来が忙しい生活だ、と予想を立て、その場で友人や彼女との別れを見送り、目的の品定めに赴く。
店舗に入ったところまでは良かったが、ポケットに手を入れ、商品を眺める間に、店員の目が明らかに"場違いだ"と指していた。
張り付いた笑顔も然ることながら、値札に並んだ数字の桁に思わず息を飲み込む。
そこで他の選択肢を、などと引き返す余裕もなく、仏頂面をしたまま、店内を歩き回り、ふと、足を止めたところで軽く息を吐き、目にした物を購入した。
それは、界隈の人たちから見れば、質素で陳腐だと揶揄されるかもしれない。
実際に彼女がかつて放り投げた指輪より価格も安いし、一生に一度の物に見えないのは尤もだった。
自分が選んだ物に後悔などないが、過去を手繰り寄せたことから僅かな不安要素もある。
『重くて嫌なの』
あの時の言葉が、自分にも返ってくるんじゃないか、と。
ようやく店舗を抜け出し、タクシーを捕まえ、マンションへと向かって行く。
オートロックを解除したところで、ここに住むことを想像して見たものの、部屋へ着くなり、広がる光景に瞬きを繰り返す。
やっぱり、落ち着かないな、と呟きながらも換気扇の下に立ち、煙草をくわえると、終には将来を描いていた。
もしも、一緒に住めるなら、ここより狭い場所がいい。
以前に自分が住んでたアパートなど論外だが、二人で暮らすなら普通のマンションのほうが合ってる。
二人で食事をして、他愛ない話を楽しんで、ときどき喧嘩をしたりするような、温かい家庭を築きたい。
けれど、唯一の欠点は此方よりも上手で、いつも突拍子がないこと。
そんな妄想をしながら夜を迎えてシャワーを浴び、彼女の帰りを待ち続けた。



