猫と髭と冬の綿毛と


「確か、九号だ」

頷いて返すと、友人は徐にテーブルの上からビール瓶を手に取り、一方では空のグラスを此方へ傾ける。
流れ作業のような動作を黙って受け入れ、なみなみと注がれていく液体を見ながら吐き出す。

「今日は付き合わねぇぞ」

「わかってるよ」

互いに酒を酌み、少しずつ口にしながら、騒ぐ仲間達を眺めていた。
暫く同じことを繰り返し、友人は半分以上も残った酒を一気に呷ると、此方へ軽く詰め寄る。

「お前、あいつを飼い慣らせるのか?じゃじゃ馬だぞ」

「知ってるよ、散々振り回されたからな」

「それは、あいつが甘えてるのに気づかないお前のせいだろ」

友人の皮肉めいた言葉を聞き、思わず投げ遣りに応えてみたが、返された言葉が現実だった。

確かに、何度か異変を感じたのにも関わらず、目にする事だけを信じて、嫉妬に駆られたまま、本質など構いもしてない。

最早、殴られたほうがマシなくらいの過去を脳裏で浮かべて居た。

まぁ、でも……、と不意に隣から友人が呟き、ビール瓶を手にして続ける。

「あいつの気持ちは、お前が想ってる以上だ。あんなに笑った顔、見たことねぇもん、俺」

ふと思い切り鼻息を飛ばされたが、そこに嫌味などはなく、互いが自然に視点を向けると、彼女は目線が合うなり、此方へ近付いてきた。

「ねぇ、みんなで写真撮ろ」