それから居酒屋に着くなり、四十路の友人に抱き締められ、唐突に泣いたかと思えば、すぐに絡まれ、何かと世話を焼いたが、別れたのは午前四時過ぎの白けた朝だった。
顔を赤く染め、足取りも覚束無い様子で、タクシーに乗るまで見送ったものの、式に間に合うのか?と一抹の不安を抱える。
そのまま、続きの車へ乗り込み、起こさないように入らなければ、と考えたところでドアが開かれ、タクシーから抜け出し、見慣れない光景を横目に部屋へと向かって行く。
音を立てぬように鍵を差し、ゆっくりとドアを開いて身体を滑らせ、静かに足を進める。
けれど、ベッドの上に彼女の姿はなく、徐に携帯を手にして掛けると、近くのほうから音が聞こえた。
訝しげに辿ると、ベッドの傍らで見つけたが、こんな時間に、と更に謎が深まり、考えに耽るも、上手く脳裏が巡らず、置き去りにされた携帯を眺める。
目の前では着信画面から待ち受けに切り替えられ、どこかで目にした映像が消えると同時に声を掛けられた。
「おかえり、お髭さん」
「ただいま……、帰ったら居ねぇんだもん、お前の携帯鳴らしてた」
軽い愚痴を零した自分に、彼女は笑いながら、トイレも行っちゃダメなの?と言い、ベッドの中へと潜り込む。
すぐに丸みを帯びた箇所を覆うと、お酒臭い、と苦笑いされ、退散するように身を翻した。
「ごめん……、風呂借りるわ」
「どうぞ」
些細な会話や他愛のない戯れ合いが、一緒に暮し始めたようで、気持ちを擽る。
そこで、こんな日々が続いたら幸せだろうな、と思った。



