彼女に手を引かれるまま、高そうな車の横に着くと、自然な動作でドアが開かれ、当たり前の顔で促されたものの、追われる形で乗り込み、姿勢を正したところで、ミラー越しから鋭い視線が刺された。
先程までの甘い状況が一気に奪われ、冷めた空気が直ぐに身体中を駆け抜ける。
なるべく視線が合わないように足を組み、頬杖を着いてから窓の外に逸らした。
どこへ連れて行かれるのか、思考さえ追い付かず、膝の上を爪先で弾きながら、過ぎ行く景色を眺めて成り行きに任せる。
ふと、右手に軽い熱が帯び、細い指が静かに隙間を塞いだ。
運転手の隙を伺い、横目で彼女を見ると、前を向いたまま、ただ、眠そうに瞬きを繰り返していた。
暫く車を走らせあと、着いたのは洒落た佇まいを構える集合住宅で、いかにもな雰囲気が漂い、妙な動悸が叩き始める。
彼女は木崎に短い礼を告げ、ドアを開けながら、訴えるような目で此方を促す。
どうにか車を抜け出し、慣れた足取りの背後に着き、入口へ向かうと同時にドアが開いた。
見る限りではオートロックのようだが、何一つ触れてないのにも関わらず、前へ進む様子に息を飲み、再び背後を追う。
エレベーターに入ると、最上階のボタンを押し、徐々に開いた視界には、誰も住んでないような静寂に包まれていた。
「どうぞ、お髭さん」
彼女は執事のようにドアを開けて佇み、此方を見つめたまま、柔らかく微笑む。
「……お邪魔します」
気後れしながらも足を進めて行き、部屋に入るなり、広がった景色に別世界へ迷い込んだ錯覚を起こした。
呆然と立ち尽くしたところを目掛けて彼女の声が飛ぶ。
「座ったら?」



