じゃぁ、教えてやるよ、と彼は呆れたような息を吐き、帰国した時の状況を語り出す。
あれは彼女のわがままから始まったことだった。
仕事が忙しい此方に遠慮して連絡するのを躊躇い、その合間を狙っては見たものの、休憩さえ間々ならず、八方塞がりで考え付いたのが撮影依頼だ、と告げ、再び続ける。
彼は界隈に入る前から、一般人と将来を見据えた交際をしていたが、世間に公表する前に急に売れ出し、事務所的にも黙認した形で、報道者からの追尾や真相を免れる為に、彼女は代役を買って出ただけのこと。
二人で抜け出した二日間は、"彼女の振り"をした彼の恋人で、日比谷も彼女に着いて回っていたが、当時は酷く落ち込んだ状態で、何度も溜息を吐いては携帯を取り出して、あれは完全に恋する乙女だった、と話を終え、軽く笑った。
「なんだよ、それ……」
「お前は何も分かってねぇな、好きだから言えねぇこともあるんだよ」
そこで、過ぎたはずの一週間を振り返ると、思い当たる節が山ほどあり、下らない嫉妬で邪魔をして傷つけたまま、自分の感情ばかりを優先している。
これほどまで不甲斐ないのにも関わらず、彼女は怒るどころか、連絡を取るのさえ一度きりだった……。
何をしてたのか、と考えたところで、次第に目の奥が熱くなり、込み上げる物を堪える。
けれど、胸の内では答えが決まっていた。日本に帰って、彼女に謝ろう、と。
「式は、いつ?」
「来週の十月十五日、チケットは撮影の礼だ、送っておく」
「安すぎて足が出そうだな」
「写真集で儲かっただろ、じゃぁな、待ってるぞ」



