猫と髭と冬の綿毛と


「別に構わねぇけどさ……」

「……璃乃か」

その名前を聞く度に、鼓動が跳ねて、息をしてるのか、分からなくなる。

「なんで、あいつの名前が出てくるわけ」

「そりゃ、俺の結婚式に来るからな」

大きく息を吸い、気の無い素振りで吐き出す。

「で、式は?」

「お前、璃乃と連絡取ってないのか?」

質問をした途端に、訝しげな声で返され、言葉さえも詰まらせる。

「……いいから、いつか、聞いてんだろ……」

向こう側では呼吸を整えるように繰り返し、ふと、吸ったところで軽い溜息が聞こえた。

「なんで連絡しねぇんだよ」

「彼氏が居る奴に連絡してどうすんだよ」

互いに声を荒げて、気まずくなり、どちらからともなく、黙り込む。
険悪な空気が漂う中を割くように、日比谷は静かに投げ掛けた。

「お前が彼氏だろ。お前、あいつの何を見てたんだ?」

「……もう、わかんねぇよ……、あいつが……」

顔を擦りながら頭を抱えて、目を伏せたまま、当てのない視点が震える。
帰国したい気持ちと、したくない狭間で揺れていた。