自室として与えられた六畳程の小部屋に戻り、撮り溜めた写真を整理しながら、煙草に火を点けて吐き出す。

目に入る煙に皺を寄せて再び吸い、二息したところへ携帯が鳴り響く。

表示も確認せずに片手で操作し、耳にすると懐かしい声が聞こえて来る。

「おはようございます、木崎です。少し話をしたいのですが、お時間頂けますでしょうか」

落ち着いた口調に、一瞬にして彼女のことが過ぎり、妙な動悸が鼓膜まで響いた。

それでも、どうにか思考を傾け、報酬は充分な金額で振り込まれてる事から、手違いをしたのか、と様子を伺う。

「なんでしょうか……」

「簡潔に言いますと、帰国して頂けませんか」

幾ら何でも、と前回の依頼を思い出したが、全く同じように感じず、どこか腑に落ちない。

「いきなり掛けて来て、用件も言わずに失礼ですね、相変わらず」

皮肉を込めて吐き出し、煙草を乱暴に揉み消したあと、携帯を持つ手を変え、頬杖を着くように続きを待ち構えた。
ふと、彼は短い鼻息を吹き、申し訳御座いませんでした、と軽く咳払いをして応える。

「当社に在籍中で、男性歌手の宣伝映像に咲山が出演する事が決まりまして、特集記事の写真を依頼致します。撮影期間は一週間程度で手配等は此方が致します、それから……」

「折角ですが、他を当たって下さい」

咄嗟に話を遮るも、彼は透かさず被せて来た。

「帰国は一週間後で滞在期間も同様です、そちらの関係者に話は着けて有ります。チケットは送付して報酬も口座に振り込み済みです、何か不都合等は御座いますか?」