「ねぇ、疲れた……、早く部屋行こ」
「誰の……?」
「木崎が二人に取ってくれた。……早く」
それは彼氏と過ごすために取られた場所じゃないのか、どうして、自分を連れ出すのか。
彼女は一体、何を考えてるんだ……?
訳も分からずに手を引かれ、導かれるままに最上階へ着くと、手馴れた様子で鍵を差し込み、ドアを開けて此方を促しながら、中へと足を進めて行く。
まるで、映画のワンシーンのように、パーカーを脱いで放り投げ、ベッドの前で再び此方を促す。
ゆっくり腰を下ろすと、直ぐに彼女が膝の上に乗り、今まで見たことのない眼差しが向けられた。
沈黙に包まれる中で、静かに声が零れる。
「お髭さん……、わたしを……、抱いて……」
目を閉じて深く息を吸い込み、大きく吐き出し、暫く考えてから応えた。
「お前、何言ってるのか分かってんのか……」
「わかってる……。ねぇ、いつも聞くけど、何がいけないのか、本当に分からない……」
出来ることならば、髪を撫でてキスをして、優しく抱き寄せ、その身体に触れたい。
けれど、それは自分がしていいことではない。
躊躇う隙にも彼女は近付き、此方の耳元で「お願い……、抱いて」と、せがんだ。



