猫と髭と冬の綿毛と


最終日の朝に目覚めてから携帯を手に取り、表示された一件のメールを開くと、木崎から追加の連絡で、ホテルの住所や電話番号、地図に至るまでが丁寧に記され、思わず苛立つ。

子どもじゃあるまいし、などと軽く不貞腐れながら、荷物を纏めて部屋を抜け出し、タクシーに乗り込む。

着いたのは見るからに煌びやかで、若者が集う洒落たプールを備えた豪華な宿泊施設だった。
流行を取り入れたナイトプールでの撮影か、と建物を一通り眺めて、見た目の良い"彼"なら映えそうだな、と足を進めて施設の中へ向かって行く。

フロントに荷物を預け、思い付くままに撮影場所へと急いだ。
時間に余裕は有るが、安全性の確認が取れてない。
水辺での撮影から予想するには雨を降らせる可能性が高く、木崎から届いた詳細にも最初の方で注意を促してる。

現場に着くと酷い場違いで居た溜まれず、足を止めて辺りを見回した。
目の前には数十人の外人が水着で歩き周り、関係者と一般人の区別がない光景が広がる。

呆然と眺めたまま、会わない月日の中で、彼女は駆け上がった、と思い知らされた。

それは、この一週間でも、どこかで必ず目にしている。
煙草を買いに行く際のコンビニで、何気なく手にした雑誌の片隅で見付けたり、仕事の片付けをする合間に、点けたテレビから流れた深夜のドラマで、脇役を演じる姿を眺めたりもした。

遠い世界に置かれたようで寂しい気もするが、寝て帰るだけの部屋に用事も無く、壁際へ背中を預けながら、撮影が始まるまでの過ぎ行く時間に、ただ、身を委ねる。

やがて、夕方の空が近付いたころ、現場の慌しさに囲まれ、予想通りの展開を迎えて、終えた頃には肌に纏わりつくほど濡れていた。

早く着替えをしなければ、と思ったものの、写真の確認に手間取り、諦めた状態で作業を進める。

その傍らでは、彼女がプールの縁で座り込む姿と、ぼんやりするような表情を捉えていた。

思わず彼の影を探したが、どこにも気配が見当たらず、仕事の都合で別れたのか、と直ぐに切り替え、再び作業に取り掛かる。

漸く目処を付けたときには、現場の景色は既にもぬけの殻で、彼女だけが同じ場所に残されていた。