猫と髭と冬の綿毛と


六日目の撮影は予定通りに行われ、二人が相変わらず、目の前で(じゃ)れ合う。
急遽の休日にしておきながら、謝罪の挨拶がないどころか、此方の存在感さえ消したように見えた。

電話を咎めた件で怒るのか、昨夜を根に持つのか分からないが、様子を伺う限りでは、重ねた上で、許し難いことに違いない。

別に、それで構わないし、所詮は"仲間"だ、慣れてる。ここに居ることすら、違和感もなく受け止めた。

それでも、カメラを構えた途端に彼女を捉えて、ファインダーを覗かなくても、綺麗で可愛くて、やはり、憎らしい、と追い始める。

目線を合わせないのにも関わらず、レンズを向けると、すぐに笑い掛けたり、頬を膨らませたり、と表情を変えながら、優しく微笑む。

夢中でシャッターを切っていると、目の前で幕が降りたように、真っ黒に染められた。

「もう充分でしょ……、お髭さん」

その声を目線で辿ると、彼女が背中を向け、綺麗な手で塞ぎながら、前を見つめたまま、ただ、黙り込む。

しゃんとした後ろ姿には、猫耳の先が微かに揺れていた。

おつかれさま……、と呟くように吐き出し、仕事道具を片付けたあと、現場を立ち去り、ビルから抜け出してタクシーを捕まえる。

赴くままに乗り込み、目的地を告げながら座席に身体を深く預け、景色を眺めるうちに、彼女の急な行動に気を傾けた。

彼氏は普段と変わらない態度で、関係者の邪魔をした訳でもない。だとすれば、自分が彼女に何かをして怒らせたのかもしれない。

そこで、今日の撮影を顧みると、角度の問題や距離の近さか、と落ち着き、ホテルの部屋へ入って一息吐く。

徐に携帯を取り出すと、木崎からのメールが入り、後日の撮影はプールで行うが、着替えの準備に加えて、帰国のチケットがホテルの部屋まで届けられる、と言う二点の連絡だった。

プールの文字に、思わず彼女の水着姿を想像したが、猫耳の印象が強くて完全に色気などなかった。