馬鹿で結構だ。
彼氏が居るのに日課にして、何の意味があるのか、"友達ごっこ"にでも付き合わせるつもりか。
生憎、自分にはそんな懐の大きさもないし、ずっと嫉妬をしたままだ。
行き場の無い苛立ちも気にせず、ベッドに足を滑らせ、乱暴に布団を掛けて潜り込む。
空港で別れてから、この依頼が来るまで、どうやって彼女を信じてたのか、思い出せない。
触れる狭間で様々な感情が常に邪魔をしてくる。
冷静になろうとすればするほど、脳裏で繰り返し、気付かぬうちに朝を迎えて、重い瞼と身体で着替えていく。
前後を逆にした状態に鼻で扱い、再び翻す傍らで携帯が震えた。
裾へ足を入れながら、表示を眺めて、妙な動悸が叩き始める。
袖を通した手が伸び、自然に耳元へ当てていた。
「はい……」
「おはようございます、木崎です」
名乗らなくても、表示は出ていると言うのに、聞こえた口振りが癪に障る。
もう一方の手に袖を通して、持ち変える合間で、声が流れて来た。
「うちの咲山を知りませんか?」
その言葉の意味は理解してるが、思考が飛んだせいか、無表情な顔で吐き出す。
「聞く相手、間違ってませんか」
「そうですね……、失礼致しました」
いつも冷静沈着な彼の沈んだような声が気に掛かり、思わず呼び止めた。
「どうかしたんですか」
「いえ、何も御座いません。本日の撮影は中止となりましたので、ご連絡致しました、失礼致します」



