「美緒」


ゆっくりと振り向くと、走ってきたからか前髪が少しぴょんと立っているタキシード姿の絢斗が優しく微笑んで立っていた。

やっぱり、何年経っても絢斗から名前を呼ばれると私の胸はきゅっと幸せに締め付けられる。


「走ってきたの?せっかくかっこよくしてもらったのにダメだよ」


笑いながら前髪を指で直してあげると、じっと見つめられていることに気づく。


「めちゃくちゃ、綺麗」

「ふふ、絢斗もめちゃくちゃかっこいいよ」


そっと両手を握ってきた絢斗が、私を愛おしいものを見るように優しい眼差しで見下ろしてきた。


「今ね、私たちの出逢いを思い出してたの。本当、色々あったなぁ、って」

「そうだね。もしも過去に戻れるなら、美緒をもっと幸せにできたかもしれない」


頰にそっと手を添えてきた絢斗にすり寄りながらふっと吹き出す。


「絢斗は十分すぎるくらい私に幸せをくれたよ」


この数年間で私はいったいどのくらい幸せだと感じたのだろう。

今この瞬間だって、世界中の誰よりも幸せな自信があるくらい私は毎日絢斗から幸せをもらい続けていた。