「どこから行こうか」
入園前から手を繋いで、園内マップを見ながら今日の計画を立てる。
どこへ行こう、何しよう。
園内のベンチに腰掛けて話す。
「お化け屋敷とか、どう?」
「無理無理無理無理!無理ですよ!」
「え、遠足の時行かなかったっけ」
覚えてたんだ、紺くん。意外。
……じゃなくて。あの時は手を繋いでたから大丈夫だと思ってたけど結局怖かったし。
「まぁ、戸亀のときもあんだけ怖がってたし辞めとくか」
「そうして貰えると助かります!伸太郎くんと入ったときも怖かったですし……」
文化祭であんなに怖いのに、遊園地で怖くないなんて有り得ない。
「……え、七海とお化け屋敷行ったの?」
「はい。文化祭で羽生ちゃんのところに」
「ふーん。……よし、行こう」
「どこ行くんですか?」
「決まってるでしょ」
そう言われて連れてこられたのはお化け屋敷。
なんでこんなことになったかな。さっきは辞めとくって言ったくせに。
「なんでお化け屋敷なんか来たんですか?」
「七海と行ったのに俺とは行きたくないって、むかついたからに決まってるじゃん」
……なにそれ、可愛いんですけど。
紺くんがヤキモチ妬いてる。
可愛い。どうしよう。頭わしゃわしゃしたい。
でも、でも間違えたなぁ。違う時に思い出話として話すときがあったら言えばよかったかな。
ついうっかりで、こんなことになるなんて。
「やっぱり辞めませんか?」
5分、10分。
時間が経つ度に近づいてくるボロボロに見せかけた建物。
「えー、ここまで並んだのに?」
「でも……」
思わず繋いだ手に力が入る。
「うそうそ。ごめん。ちょっと意地悪したくなっただけ。ゴーカートしたいんだけど行かない?」
ケラケラと楽しそうに笑いながら言う。
「ゴーカート!行きたいです!」
その一言で、お化け屋敷の列を抜けて、マップとにらめっこしながらゴーカートの場所へ向かう。
「おぉー」
「広いですね!わくわくします!」
結構人が並んでいて、目の前に来るまで時間がかかったけど。その時間も紺くんと2人だとあっという間で楽しくて。
スタッフさんの、行ってらっしゃいを聞いてからはずっと笑いが絶えなかった。
「紺くん速いですね!」
「俺運転向いてるかもだわ」
終わってからも余韻が抜けず、テンションが高まった会話をしながらブラブラ歩く。
「あ」
紺くんの口から零れた言葉。
視線の先に目を向けるとママとパパとの思い出が詰まった願い橋があった。
もちろん、紺くんにときめいた思い出も。
「書いてくか」
「え?」
予想外のことを言う紺くんにびっくりしてしまう。
「願い事書いたハートの南京錠つけると叶うんだよね?」
「そう、ですけど……。紺くんってそういうの信じるタイプでしたっけ?」
願い事とかどうでもいい。実力が全て。みたいなタイプじゃなかったっけ、紺くんって。
「初と思い出残したいの」
そう、ポケットからハートの南京錠を取り出した。
「書く気満々じゃないですかぁ」
紺くんの言動の一つ一つにキュンとしてしまう。語尾が自然と伸びてしまうほどに。
「そりゃそうでしょ。これ書きに来たようなものだし」
「なんでそんなに甘いんですかぁぁ」
「好きな人を甘やかしたくなるのは当然でしょ」
確かに、それは分かるけど。
でも今までのデートの中でいちばん甘くて、一番幸せ。
幸せはもちろん、毎回回数を重ねていく事に更新されていくけど、こんなに溶けてしまいそうなほどの甘さは初めてだ。
「なんて書く?」
「私が決めていいんですか?」
「多分俺も初と一緒だし、いいよ」
どこからともなくペンを取りだして、南京錠と一緒に渡してくれる。
「じゃあ……」
"紺くんとずっと一緒にいれますように"
私のことを考えてくれる人。
怖かった大切な人の誕生日を、恐怖から楽しみに変えてくれた人。
風邪を引いたら10倍甘やかしてくれる人。
ずっと一緒にいたいって、プロポーズしたいって思った人。
もっとくっつきたいって思った人。
ママとパパくらい、いや、ママとパパより大好きな人。
あなたにとって愛とは。
私が書いた"希望"の2文字。
そこに紺くんは、"初"と書いてくれた。
そんな、私に希望を与え続けてくれて叶えてくれる人は。愛=私って思ってくれる人は。
紺くんしかいない。
何があっても絶対に離したくない、離さない。
そんな人と、紺くんと。
まだまだ長いこれからの人生を共に歩んでいきたい。
そんな願いを込めて。
「ほら、俺と一緒。初とこれからもずっと、一緒にいられますように、だから。俺の願い」
そう言って私が書いたすぐ下に、サラサラと願い事を書いていく。
一番下に初×紺と書いて、ママとパパと書いた、3人の願い事の隣につけた。
また紺くんと一緒に、ここにあるママとパパとの思い出にも会いにこられますようにとも願いながら。