この愛に猛る/その31
麻衣



婚約披露パーティーは午後3時前、無事、終えることが出来た

私にとっては、それこそ一生忘れることのできない数時間だったな


...


午後4時少し前

今、私はパーティー会場のホテルで剣崎さんが予約していた部屋にいる

「…では、そう言うことで、ひとつよろしく。今、麻衣に代わる」

私は受話器を剣崎さんから受け取った

「もしもし…。先輩、だいたいの話の内容は後ろで聞いててわかったわ」

「ああ、まさか剣崎さんと直にしゃべるとは思ってなかったんで、エライ緊張しちゃったわよ。額からは汗が流れてるし、へへ…」

アンコウめ、前々から剣崎さんへの関心は高かったからな(笑)


...


「とにかく剣崎さんにも頼まれたんで、こっちの界隈へは早急にかかるよ。とびきり腕を振るって、念入りに脚色するから期待しな。ヒヒ…」

おお、ここでいつもの”背筋ゾー”の笑いが来たぞ

「お願いしますね。それで、他に変わったこととかはどうですかね?」

「うん、どうやら”刺客”は都県境に入ってる。今んとこ確認できてるのは一人だけだが、マキにも言ってあるから詳しくはアレから聞いてちょうだい。それと、ジャッカル・ニャンの店内の様子がちょっとねえ…」

「真樹子さんには明日、ヒールズに来てもらうことになってるので、よく聞いときますよ。それでニャンの方、どうしたってんですか?」

私は後ろの剣崎さんを振り向き、目で会釈した

「まあ、何て言うか…、ガラの悪い連中が数日前から目立たなくなっていたらしいんだが、今日なんかは全然目につかなかったってことなんだわ」

それって…、どうなんだろうか…

「…ジャッカル・ニャンには、ここずっと私の張り付きが交代で、欠かさず状況をチェックしてたんだけど、どうもそんな変化がね。無論、これが何を物語っているとかはまだわからない。ただ、そっちでの伊豆のパーティーも関係してるのかって気もするよ、麻衣…」

「ええ、何らかの関連はあるかもですね。この辺、そっちに戻ったらまた詳しく聞かせてください」

「了解。なにしろ今日はお疲れ様。アンタのことだから、そういう席でも楽しんだだろうけどね、ヒヒ…」

「今日のことは今度会った時、ゆっくりお話ししますよ。海産物のお土産もたんまり持って帰りますから、楽しみにしててください」

「ありがとうよ。じゃあ、こっち戻った後の連絡待ってる。バーイ!剣崎さんにもヨロシク~」

なんだよ、おい、アンコウがギャルってるって

キモイなあ…(苦笑)


...



「…そうか。あの店がな。その先輩の言うとおり、”今日のこっち”と関係してるな、これは…」

剣崎さんもそう見立てていた…

「いいか、麻衣。今日の結果を受けたダイレクトな形でのリアクションはすぐだ。それは関東の組織自体だけでなく、各方面からもな。しかも違った形の…、直接目に触れないところでの動きもだ。むしろ、それの方が”本当”のところかもしれない。逆を言えば、目に見えたダイレクトな動きはまやかし、偽りってこともあり得る。都県境に戻ったら、それを肝に銘じて注意を怠るな」

「わかりました。私の方も気が付いたことは、その都度連絡しますんで」

「ああ、頼むな。…でもまあ、今日のお前は言うことなしだったよ。よくやってくれた。俺だけでなく、矢島さんも叔父貴もお前には感謝していた。ああ、倉橋もだよな。はは…」

剣崎さんのこの言葉うれしいや、素直にさ、へへ…


...


「いずれにしても、我々の想像以上にうまく運んだ。だが、これはお前には言っておくべきだと思うから話すが、俺の、まあ漠然とした感触だが、お前の身には危険度が増した。そう捉えてる。少なくとも、今日で業界全体がお前の見る目は大きく変わった。これは間違いない。問題はそれが吉凶、どちらに転がるか…。正直なところ俺は不安だ。明石田の叔父貴も今日、同じ心配をしていたしな」

剣崎さんのこの言葉もありがたいや、はは…

その上で、私は言った

「私自身、今日のパ-ティーがああいった形で終えたのを考えて、お二人と一緒の見解を持ちました。だから、指摘してもらったことは、しっかり自覚してます。その上で、私は例によってそのヒリヒリ感にときめいています。ですので、あまり心配しないでください。叔父さんにもそう伝えてもらえますか?」

「ふう…、全くなあ…。要はお前がそれを分かってるならいいさ。まあ、ミカにはよく言っておくから、くれぐれもな…(苦笑)。よし、あとは、お前が向こうに着いてからにしようや。おお、そろそろ時間だろ」

という訳で、私は部屋を出て優輔と母とミカさん、そして運転手の能勢さんが待ってるロビーへ向かった

さあ、これより帰路に着く!



ーこの愛に猛る、完ー
注釈:本作品は『ヒート・フルーツ』全編版第3部第20章・第21章の抜粋版です。