この愛に猛る/その30
列席者たち



A「しかしあの娘っ子、噂以上やな。亡くなった相馬さんに眼がそっくりだけじゃねえ。大勢の業界連中前にして、あのクソ度胸はなんじゃい。こんな席上でエロ話なんぞ堂々と言いよって。”ココ”のイカレ度も甲乙つけがたいわい」

B「ワシは相馬さんには会うたことないんやが、相和会のモンがホンマに血縁と信じとったらしいしな。”それ”と撲殺もんが夫婦になるんじゃ、相馬豹一の”影”はこれからもずっと消えんと言うことか…」

A「そういうこっちゃ。それがどういう意味をもたらすか…。相和会は確信犯で今日の舞台をぶち上げとんのか…」


...


C「フン、手の凝った脚色や。あの嫁はん、撲殺もんの首についたあの焼き跡に惚れたってよう、はは…。関東のモンはけったいなストーリーを考えつくのう(笑)」

D「そんなもん、ここにおるモンに万博抗争の記憶を呼び戻す演出でんがな。おおかた”作者”は剣崎あたりやろう」

E「じゃが、皆、あのおなごの話に惹きつけられとるぞ。何とも不敵で泰然な振る舞いじゃ。とても17の小娘とは思えん」

D「おお、助川の御大が挨拶されるようや」


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A「おい、御大がここまで相和会と結びついてるのか。これじゃあ、もう杯交わしたのと一緒やないかい。なのに連中は関西本家の傘下に入らん。ワシらの世界じゃ筋が通らんだろ」

B「だが、関西の本家はそれを承知でこの方針なんやろ。相和会は関東とはなんや揉めちょるようやし、ここまであからさまに相和会とラブラブ晒しておったんじゃ、関東も黙っておらんやろ。本家はまた関東と全面で構える気かいな」

A「せっかく相和会が新体制に入ったのを機に、関東とも相互利益を確認し合ったのによう、おかしいぜ。実際、関東の知合いも相和会には腹を立ててると言っとった。やっこさん、今日の様子をえらく気にしておったわ」

B「ワシんとこも大きい声では言えんが、こっちにおる間、人を介して関東の関係者が会えないかと接触してきとる。じゃがよう、助川さんにあそこまで表だって宣言されりゃあ、やたらには会うたりなど出来んわ…」


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D「なあ、今撲殺もんとグラス交わしてるの野本やろ。万博抗争の時、焼きごて当てたのんは奴だったよな?」

C「ああ、そうだった。野本の奴、今日来てやがったのか…。あの様子だと”和解のカンパイ”ってとこやな」

D「奴の地位でここにおるんは、ちいと分が足りんやろう。さしずめ、過去の清算をアピールする目的で誰やらが呼んだんだ。フン、まったく舞台設定は周到だわ、新生相和会はよう」

E「でも、みんな注目してるぞ。ああ、拍手まで送っとる。さかんに声掛けしとるのは犬飼はんやな」

D「なるほど、そうか…。犬飼さんのセットだ。あの人のルートなら野本の親筋に一声で済んじまう。うーん、そうなると犬飼さん、御大の方針に賛同ってことだろうし、こりゃかなりの連中があの人に倣って行動を一にするな…」

C「しかし、犬飼さんは相和会を飛び出して破門された北原を受け入れたんだろう。相和会の3代目体制に弓引いた幹部を保護してんなら、矢島や明石田とは対立する立場と見るのが自然と違うか?」

D「フフ…、おそらく事前に話はついていたんだ」

E「なら、北原と矢島らは仲直りってことか、すでに…」

D「だろうよ。水面下でねんごろに各々の条件を摺り寄せて、矢島は北原を不問にしたんや。ほんで犬飼さんも相和会とは協調姿勢に舵を切ったってことだ。全く、どこまでも抜け目ないぜ、3代目体制の相和会は…」


...


A「なんや、みんな…。あの娘と”はいチーズ”って、極道がなにやってんだ!見てられんわい」

B「どうやら合いの手入れて盛り上げてんのは、新義友会と五島組に繋がるモンやな」

A「そう言うこった。相和会のチンピラを囲っとる五島組と相和会離脱組を引取った新義友会だけが、対相和会でおいしいトコを独占しとるんや!クソッ、あれらばかりがいい思いをして、ワシら他のもんはいつも貧乏くじじゃ。やっとれんわい、いい加減によう!」

B「おい、あまり大きな声あげんといた方がええで。所詮、五島や新義友会は本家直系でも筆頭格だからなあ。あまり目立った態度を見せて睨まれても損や」

A「まあ、悔しいが、”大手”の中におる身分じゃからのう。おお、その五島さんがラストバッターのようだ。麻衣とかって今日のヒロインを抱き上げとる…」

B「まあ、ここは愛想送っておいた方が無難や。”はいチーズ”…」

”ぱち、ぱち、ぱち…”(A&B)


...


A「…おいB、聞いたか?明石田さん、ワシら全員に”果実”って言ったよな?」

B「ああ、ありがたいのう…。相和会とは当分、仲良くせんといかんなあ(笑)」