この愛に猛る/その2
ケイコ



アキラはちょっと厳しい表情になっていたかな

さあ、私もしっかりと聞くぞ、逃げずに…

「…今の相和会にとって、不都合な”本当のこと”を知っているオレ達の存在ってさ、当事者以外にもかなり察知されてるらしいんだ。さっき言った、あの業界とそれ以外の半グレ連中や、麻衣とかキミたちが関連したグループだとかも一緒たくたになって、関東の組織と通じてる不良やチンピラから様々な情報が巡ってるようだってね」

アキラの伝えたいことはなんとなく予想はつく

要は、私たちが危惧すべき”懸念”は今まで怯えていたことじゃない…


...



「…その中にはさ、マッドハウスでの薬物事案は建田さんを2代目から失脚させた陰謀だって憶測が含まれてる。追川さん、それは確信に近いって言ってたんだ。そうなれば、相和会にダメージを与えたい連中からすると、何か使えないかとね…」

「アキラ、そういうことになれば、相手の立場で考えないとね。まず、然るべき連中って言うのはどんな奴らかってことだけど…」

「追川さんからすると、相馬会長が死んだ後の相和会への脅威はもう、関東本家のトップにまで及んでるってことだから、”そこ”の思惑から捉えるべきだろうって…。ポイントになるのは、これ以降、関東は相和会を関西から切り離す手段を、それこそ目の色変えて探す…。そういう視点に立つと、おのずと見えてくるんじゃないかって言ってたんだ」

「うーん、なら、具体的にはどんなことが考えられるんだろうか…」

「あのさあ…、相和会を脱退した建田さんの下にいた人なんかは、剣崎さんが建田さんと話を今回つけたのと並行して、もう取り込んじゃったと見てるらしいんだ。オレがよく知ってる、破門された北原さんとかも…。その人達みんな、関西系列下に入ってるから、関東からしたら、彼らからは自分達に有用な相和会のリークネタなど話さないだろうってね」

そう言うことになるんだよな、結局…

それならば…


...



「アキラ…、それなら、他から相和会にとって不都合なネタを知っている人間はいないもんかと、関東トップの意思もそこに行っちゃってるってことなんだね?」

「まあ、追川さんも、その辺はかなり慎重な言い回しだったけど、オレたちがそれにピックアップされてる可能性は大というニュアンスだったよ。なんか、相和会内部の下っ端からの”軽口”がね、チンピラとガキ界隈との接点で、コテコテのヤクザである関東本家にまで入ってるようなんだ。ガセやウワサの類も含めた様々な情報がさ」

「その中に、薬物事案の真相ネタが入ってるって訳ね?」

「うん…。それも、相和会を目のカタキにしてる関東からすると、このネタのバリューはかなり高いだろうって…」

「…」

アキラは、はっきり言ってくれたよ

私たちはじっと視線を合わせ、しばらく黙っていた


...



「そうか…、そんならさ、奴らが誰かを使って私たちを連れ去って、尋問にかけるようなことは十分あり得るよね…」

「ああ、追川さんは不審な接触があったら、すぐ知らせろって言ってた。ケイコちゃんは今んとこ、そんなことあるか?」

「ううん、今んところは特にないかな…。この前、砂垣さんからも、そういったコトには注意するようにって言われてたからさ、常に気を付けてるし…。アキラの方はどう?」

「オレの方も特段はないけど、タクヤの接触はそれと無関係じゃないかもね。アイツの話じゃ、実際にマッドハウスの専属バンド、ロード・ローラーズの元メンバーという括りで、オレに目をつけてるようなことは言ってたもんな。もしかすると、建田興業の地上げに関与していた奴ってことまで知られてるかもしれない…」

なんか、急に恐くなってきた…


...



「アキラ…。本当に気を付けてね。私も今まで以上に、知らない人との接触には慎重を期すから…」

「わかった。タクヤにはさ、数日中に連絡するんで、それとなくまた探りを入れてみるよ。追川さんからも、バンドの口利きは心がけるってやんわり言っとけば、向こうも協力的になるだろうから、ヤツの動きは今後も目配りした方がいいって言われたよ」

「そうだね。そもそも、そういうやくざもんの組織外の連中が動き回ってることが、今回は大きく影響してるってことだもんね…。その人には、もうこれ以上、余分なことしゃべらせないようにしなくちゃ!」

私は、ちょっとヒステリックな口調になっていた

麻衣にそそのかされたんだろうけど、そのタクヤって男、いい加減にしてほしいよ

アキラの大阪でのオーディションを阻止しただけでも許せないのに、怪しいチンピラ連中にべらべらしゃべんなって!

ああ…、カッカしてきちゃった…

アキラはそんな私の様子、敏感に察して苦笑いだわ