この愛に猛る/その28
剣崎




「助川さんは、広島の五島さんを指名してくれましたわ。ここにおられる諸氏ご存知の通り、大阪万博のごたごたじゃあ、五島さんはいわば中心人物じゃった。だが、あえて広島じゃと言う助川さんに、わしらは下駄を預けましたわい」

その申し出を五島さんは快諾してくれた

無論、他ならぬ西の御大の指名だし、関西の組織下での諸事情を加味しての決断だっただろう

だがよう、昭和45年のあの時、共に最も憎しみ合った相手同士なんだ

それをポーンとノーサイドとされた…

この時、矢島さんと叔父貴、そして俺はそれなりの形をもって応えるべきだろうと意見が一致した

うん、あの時の会話は鮮明に覚えている


...


「…どうですかね。いっそ、倉橋と婚約を果たした麻衣、その二人を親善特使として広島へ向かわすってのは」

俺の突飛な提案に、二人は目を点にしていたよ

「おい、剣崎。倉橋はわかる。奴は万博抗争での象徴だ。だが、麻衣はいくら何でも高校を中退した未成年の娘だぞ。西との付き合いを本格化する際の窓口ともなる五島によう、いくら何でも軽すぎるだろ。茶化してんのか、お前らはってことになる」

「いえ、逆ですよ、叔父貴。麻衣にはすでに、亡き相馬会長との出会ったいきさつ等々、様々な伝説がのっかてます。それと倉橋がくっついたインパクトで、こっちの思いが返って伝わると思うんですよ。所詮、業界のアウトサイダーですから、相和会は…」

矢島会長と明石田の叔父貴は、無言でしばし思慮していた

そしてこの場で、相馬会長の映し鑑とも言っていい倉橋と麻衣を前面に押し出して、相和会が西との友好関係を確たるものとする突破口とする方針が決定した…