この愛に猛る/その25
麻衣



”伊豆の親分、もう頭を上げてください!”

”そうや!…相和会3代目体制はここにおる皆、歓迎しとりまっせ”

会場内のあちらこちらから、暖かいエールの声が上がってる

全くありがたいって…

私は伊豆の叔父さんの人望の厚さに感激してるよ

ただ…

相和会3代目体制を手放しで歓迎するって論調を真に受ける訳にはいかないでしょ

少なくとも、ここに集っている西の関係者全員の総意とは言えないって

ここまで率先して声を上がてくれているのは、五島組や新義友会らの、現在相和会と特に密な関係にある一部の有力者とそのグループだ

当然、関西の組織全体では、その一派と対立軸に立つ組織や勢力は少なからず存在してはずだし、現実にその人たちは今日この場に笑顔で参列してるしね

でも、私の見るところ、そういった人たちもこと伊豆の叔父さんに対しては、一定のリスペクトの念を抱いてると見た

だから今日、淀の御大さんが誘導してくれてでき上がった流れを受けての叔父さんが発する言葉は、また別の角度から相和会との友好関係の意義をアピールする効果があるんじゃないかな

矢島さんも剣崎さんもそれを十分意識して今日のこの席を演出してるから、マイクに立ってる叔父さんに注ぐ視線、半端じゃないしね(笑)

ああ、それと隣のダーリンもだ

もっとも、優輔さんは他の二人と比べて硬いわ、表情…(苦笑)

まあ、この人らしくていいけど、へへへ…


...


「…本日、倉橋優輔と本郷麻衣の婚約披露に、心よりのお祝いをいただき誠に感謝しております。実は、わしも麻衣に初めて会ったのは先月でしてな。兄貴分の相馬が血の繋がった高校生の娘と偶然出会ったんで、面倒を見てるというのは去年の夏から聞き及んでおったが、どうせ、またいつもの遊び心からだろうと聞き流しておりましたわい」

ハハハ、皆さん失笑してるって

相馬さん、いい年こいて年中、そんないたずら仕出かしてたらしいからねえ…

「それで倉橋と婚約した麻衣とこの伊豆で会うたくだりは、わしも先程の助川さんと全く一緒なので省略しますわ。とにかく、相馬豹一が他界してまもなく、兄貴のイカレっぷりを漂わせる年の離れたこの二人がくっついたのは、なにかの巡り合せを感じましたなあ…」

巡り合せか…

「…わしらはこの世界の異端児であり続けた相馬豹一亡き後、相和会がこれから先どう進んでいくべきか、その将来像を必死で考えましたよ。その結果、東西両方と新体制の相和会は新たな相互関係で合意を交わすことが出来た訳じゃが、これは、各々がそれぞれ譲り合って果たせた今後の指針であると信じとります。それは言い換えれば、互いに譲れないものはしっかりと貫き通す…。その信条が踏みにじられるような状況となれば、断固行動で示す。その気概を持ち得るのが当然と思うとりますが、ご一同はどうですかな?」

”その通り!”

”伊豆の親分に賛成や!”

「ご理解有難い。よって、わしらはその心情に従い今の方針で歩む腹です。みなさん、わしは今や、眠っとって朝目覚めりゃ、決まって頭は西を向とる。そう言うことですわ」

ここでの笑い声と拍手は、会場内に響き渡った