この愛に猛る/その23
剣崎



「よっこらしょー!」

”うぉー!”

場内は野太いどよめき声が響き渡った

”おお、野獣に麻衣ちゃんが抱きついたわい!いやあ、かわいいのうー”

”五島はん、自慢の強面が緩みっぱなしやで、アハハハ…”

麻衣を力強く抱きかかえた五島さんは、白い歯を見せながら仁王立ちだ

うん、なんとも絵になってる

左手は麻衣の両足、右手に麻衣の胴体、そして宙に浮いているその麻衣は両手を五島さんのごつい首に巻き付けていた

おいおい、麻衣、お前コアラかよ…(笑)


...


”はい、チーズ!”

極道連中によるハイテンションなコールは、品はないが、どこか微笑ましげなハミングを奏でていた

そして、カメラのフラッシュが焚かれると、皆は二人にパチパチと拍手をおくった

「五島様、麻衣さん、どうもお疲れ様でした」

司会Mは通り一遍のセリフをマイクで告げたが…

写真を撮り終わっても、五島さんはニコニコして麻衣を抱きかかかえたまま司会者と目を合わせて仁王立ちのままだ

はは…、麻衣も大木にしがみついたコアラをやめるそぶりを見せずに、満面の笑顔を司会に送ってるよ(苦笑)






「ええ…、五島様。今、優輔さんと目が合いまして…。そろそろ麻衣さんをダーリンにお返しいただけますでしょうか…?」

「おう、そうやったな。あまりに抱き心地がよくて、名残惜しいがのう、ハハハ…。よし、そうれ…!」

五島さんは麻衣の体を一度胴上げするように、空にちょっと放った後、優しく床におろした

「わあ、今の気持ちよかったですよ、親分。子供の頃、お父さんい抱きついてたこと思い出しましちゃいました。ありがとうございました」

麻衣が物心ついて間もなく、ヤツの父親は家を出ていったらしいからな

体の大きな五島さんの腕にすっぽり収まって、ふと”父親”を感じたのかも知れない

五島さんは目を細めて、そんな麻衣の頭をゴシゴシ撫でてたよ

なんか、いい光景だな…