この愛に猛る/その22
剣崎&麻衣



”写真撮影会”の盛り上がりは完全に予想を超えた

一同、出来上がった写真を手に業界仲間(ライバル?)と互いに見せ合っては、楽しそうに笑いながら語りあってる

そんな和やかなシーンが、それこそあちこちで展開していた

「…おお、やっとワシの番号が呼ばれたか。じゃあ剣崎君、”はいチーズ”してくるわ。ハハハ…」

ラストの五島さんはのっしのっしと、麻衣のもとへ向かって行った

麻衣も五島さんのトリが”故意”なのは承知しているし、これは見ものだな…


...



「わー、五島の親分、大変お待たせしちゃって…。すいませんねえ。さあ、一緒に写真ですよ!」

「おー、麻衣ちゃん。疲れてるところ悪いけんど、ワシで最後じゃけん、よろしゅうな」

このやり取りだけで、周囲はどっと沸いたよ

麻衣のツーオクターブほど上げた呼びかけで、明らかに五島さんが特別のツーショット相手ということが周りに伝わっただろう

それを受けた五島さんはそのオーラを放つ佇まいで、何とも絶妙なスウィングだ

このリアルな空気は、かなりの人にダイレクトで届いた…

その手ごたえはあったな


...



「えー、ご歓談、お食事中の皆様には恐縮ですが、ここでお知らせいたします。中央ステージでの撮影タイムは、いよいよ最後の方をお迎えいたしました。よろしければ、ご注目下さい…」

司会者は気合が入っていた

ここがプロの力の発揮どころと心得ているんだろう


...



「…麻衣さんの撮影タイム、ラストパートナーは、広島からお越しいただきました五島様です。麻衣さんは、一番長くお待ちいただいた五島様には、特別のポーズで写真に納まってもらいたいと申しております」

ハハハ…、麻衣め、そう出たか

ヤツの臨機応変ぶりは、こう言う席だとなんども冴えるな

「ええと、麻衣さん…、どんなポーズで撮るんですか?」

「今、五島の親分と相談しますね。ちょっと待っててください…」

麻衣は五島さんに耳元で何やら語りかけてる

ハハハ…、大柄の五島さんは麻衣の口元まで体を丸めて、しゃがむような格好でフンフンとそれを聞いてるよ(笑)

二人のそのやり取りは何ともユーモラスで、クスクスやらワハハやら、いく通りもの笑い声をが行き交っていた


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「決まりました。私を抱き上げた格好で撮ってもらいます」

”おー、こりゃ、まさに美女と野獣じゃ。五島さん、待った甲斐があったのう…”

”ほんまや、まったく羨ましいわい!”

「でも、ダーリンに許可をもらわないと。司会さん、お願いします」

この麻衣のフリはアドリブだったようだ

さすがの司会者も一瞬、あっけにとられた様子だったな


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「…いやあ、麻衣さんは若いのに何という心配りなんでしょう。わかりました。優輔さんにお聞きしてきましょう…」

司会はステージ後方に立っている倉橋の横へと歩いて行った

「えー、実は先月末にお二人が関西方面へ出向いた際、最初に表敬訪問された先が広島の五島様だったそうです。大阪万博の一件でも深く関与された五島様は、麻衣さんを伴った相和会の幹部の皆さんご一行を温かく迎えられました…」

既にマイクを手にした司会者Mは、倉橋の隣に寄り添うように立っていた

「…この時のお話合いが、今日このような場で過去の清算を皆さんで確認しあえた、まさに第一歩になった訳ですですね、優輔さん」

よし、いいぞ…、司会は五島さんをうまく引き立ててる

「ええ、まあ、そんなとこだと思います…」

司会にマイクを向けられると、倉橋は照れながら例のとつとつ調で答え、場内のあちこちからこぼれ笑いが漏れてる

「それと、五島様はお二人にお子さんが生まれたら名付け親になられるそうですか?」

「ええ。そう言うことでお願いしました。先程ですが…」

「…その五島さんは麻衣さんを抱きかかえて写真を撮りますが、麻衣さんは愛するダーリンの了解をいただきたいそうです。いかがですか?」

「自分は別に構いませんが…」

「そうですか…。麻衣さん!ダーリンのOKが出ました!」

「はーい。じゃあ、これから抱きかかえられまーす」

この3者の掛け合いはストレートに面白かった

もう参列者は笑いを抑えることを放棄し、引いてた一線を超えた…

今日のセレモニーも、ついにそこに辿ったと俺はそう捉えたよ

やったと…

...


「さあ皆さん、麻衣さんが五島様のたくましい腕に抱えられます!」

比較的的小柄な麻衣の体が、五島さんのごつい両腕にすぽっと納まった様…

麻衣を消すことを留まった決断で、こんな光景を目にすることができた‥

俺は安堵感と達成感がごちゃ混ぜの表現不能な感傷で、やや頭が混乱していた