この愛に猛る/その21
剣崎&麻衣




「…剣崎君、あれは南洲一心会の若頭補佐じゃろ」

「確か草川さんでしたか…」

「ああ、草川や。ふん、九州のケンカじゃあ、関東傘下が急に折れたんで鼻息が荒いわい。まあ、機嫌がええんじゃろう」

熊本と鹿児島を舞台とした、東西両枝組織の小競り合いから勃発した仇敵同士の抗争は、先週突然、関東側が全面撤退して終焉となった

あまりにあっけない関東傘下の譲歩に、業界内は首をかしげたよ

だが、俺もこの五島さんも、その裏には関東本家が今日のセレモニー後、相和会と西陣営が更に関係強化されることを予測した上での布石と見切っていた

「…なんやら、えらい酒が回ってるようじゃのう。全く九州もんはこういう席だと不細工曝しよる」

ふふ…、五島さんの九州嫌いは有名だしな

だが、草川さんもその辺にした方がいいと思う

まあ、麻衣のリアクシションは見たい気もするが



...



「あのう、おケツに触れてますが…」

「ああ、こりゃあ、すまんとね。はは…」

”ワハハハ…、お尻じゃなくおケツときたわ。ほんま、麻衣ちゃんは最高や”

”草川はん、その手は肩からもう下におろしたら、いけまへんで!ハハハ…”

「おお、わかっちょる。じゃどん…、ついかわいいお尻なもんで、へへ…」

”シューッ!”

「ん…?」

「…じゃあ、撮りますので!」

カメラマンの人、ようやくだよ

「うむ。じゃあ…」

”はい、チーズ!”

よし、終わりだ

「ああ、麻衣ちゃん、ありがとうね…」

「ええ、ありがとうございました」

シッ、シッ…、だっての、エロじじいめ!


...



「あっ?痛てえと思うたら、切れとる…」

隣りの五島さんとは、自然と顔を見あわせていた

俺は、わずかに口元をほころばせ会釈をした後、「ちょっと失礼します」と言って、写真撮影を終えた数メートル先の草川さんに向かって小走りした

「大丈夫ですか?よかったら、これ貼ってください」

俺は草川さんにバンドエイドを手渡した

「ああ、こりゃ、すまんとです」

草川さんは左の手の甲から、わずかだが血を滲ませていた

「麻衣さんの衣装の、どこかに引っ掛けたのかも知れんですばい…」

いや、違うって…(苦笑)


...



「草川さん…、ちょっと手を切ったみたいです。麻衣の尻を撫でてた方の手の甲でした」

「おいおい、剣崎君。それはもしや…」

俺はここでもこぼれ笑いをしながら、五島さんと顔を見合わせていた

「大勢の前でなけりゃ、鉄板入りのヒールで股間を蹴り上げるくらい平気でやりますから、あの子は。さすがに人妻になるってんで、場をわきまるようになったようです(苦笑)」

「うーん、ますますエライ娘っ子じゃわい。わしはさっき、二人の子供の名付け親に立候補したんじゃが、きっとどえらい子が生まれんじゃろう。のう、剣崎君よう」

腕組みをした五島さんは、次々に写真撮影をこなす麻衣を観察するように見つめていた


...



アハハ…

剣崎さんったら、やっぱり察してたのね

いつも常備してるバンドエイドを、九州のエロ極道に渡してるわ

なんだか極道二人で、異様な絵柄だって(爆笑)

あっ…、チラッとこっち見て、目が合ったぞ

剣崎さん、さりげに苦笑してるし…


...



「おい、麻衣、やったな?」

撮影の合間、ダーリンがすっと寄ってきて、私に小声で耳打ちだ

「へへ、わかった?」

「しょうがねーな。ほどほどにしろよ。一応、みんな来賓なんだから」

「全然、ほどほどよ。私のケツ酔っぱらいに触られて、あんなもんで済ませてんだもん」

私の愛する撲殺男は苦笑いしながら後ろに戻ったが、”頼むぞおい、今日くらいはよう…”、そんな言葉を漏らそうかと迷ってるような顔してた


...



名付けて”ピン・フィンガー”は、従来の護身&防御アイテムに加えて、つい最近から常に携帯している

これは私のオーダーで浅土道也に作ってもらった、肝いりの特製グッツだ

要は指サック状のものに小さい刃を植え込んだ、超小型サイズの着用カッターってとこね

手先が器用な道也は試行を重ね、着用までのスムーズ度、フィット感、そして刃の強度といった面でのベストバランス品を完成させてくれたんだ

で、然るべき際に備え、チャンスがあれば”テスト”を心がけていた訳

まあ、だいぶ要領は掴んだかな

今日も結構、手際よく切り込めたし、ヘへ…

なにしろ使い勝手がよく、道也には大いに感謝してるよ


...


でもまあ、私のケツとかおっぱい触ってくるヤツはさっきの酔っ払いくらいで、概ね皆さん紳士的だわね

関西人の下品なノリも嫌いじゃないし、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごしてるよ、私