この愛に猛る/その1
アキラ



今日、追川さんと電話で話した内容を告げたんだけど…

ケイコちゃんは途中から大粒の涙を流し、声を上げてワンワン泣き出しちゃった

「…私、追川さんの気持ちが嬉しいよ…。本当に嬉しい…」

オレが全部を話し終えると、彼女はそう言って、オレの胸の中へ飛び込んできた

オレの気持ちだって、ケイコちゃんと全く一緒だよ


...



15分くらいして、ケイコちゃんの目からは雨があがった

「私、顔洗ってくるね」

「うん。じゃあ、その間に紅茶でも入れとくよ。いっぱい涙出したんだから、水分を補給しないとね、はは…」

ケイコちゃん、今度はケタケタと笑いながら洗面所へ行ったよ


...



「…でもさ、追川さんも現代リサーチ出版を辞めてなかったら、さすがに今日みたいには言えなかったんじゃなかったかな?」

「うーん、その辺はどうかな…。あの人が記者を断念したのって、オレたち二人とさ、それこそいろいろ接したことが決定的な動機だったそうだから…。正確には、記事で公にするって目的意識から気持ちの変化があって、あの時、”目の前”にあった真実に対しては、ただ純粋に追求したってことじゃないのかな」

「そうか…。もしかすると、あの時点で、薄々は私たちの”真実”を感じ取っていたのかな…、追川さん…」

「それは分からないけど、”真実とはかけがいのないもの”という言葉をくれた追川さんには、オレたちが本当の”真実”と向き合って苦しんでる姿を察して、それを慮ってくれたような気がするんだよね」

「…」

ティーカップを手にしたケイコちゃんは、目を細めて小さく頷いていたよ


...



その後、オレ達二人に危険が降りかかる可能性があることについて、話し合った

「…追川さんによると、オレ達と同じ供述をした間宮さんがさ、どうやら、いろんな連中から吹き込まれてたみたいでさ…。自分が裏切った建田さんが戻ったら、殺されるって思い込んじゃってて、人を介して建田さんに釈明したいって意思を明かしたらしいんだ。それで最近、そいつらの誰かに会うため、広島から上京したって…」

追川さんの話では、間宮さんが”本当のこと”を建田さんに話す気だと相和会に疑われ、おそらくは尋問と制裁が加わえられたんじゃないかと言ってたんだ

「…実際に間宮さんは先週、匿われ先からの遣わされごとで、相和会に帰ったんだが、その後の消息が掴めず、広島にも戻っていないそうだ」

「それって、相和会が拘束してるってことなの…?」

「たぶん…。すでに消されたってことも考えられなくはないけど、その可能性はかなり低いかなとも言ってたよ、追川さん」

ちょっと迷ったけど、ケイコちゃんにはっきりと言った

彼女は「そう…」とだけ言って、さほどショックを受けたような表情には見えなかった


...



「…じゃあ、建田さんが出てきても、アキラには危害を加えるようなことはなさそうなんだって言ってたんだね、追川さん…。アキラは大丈夫なんだよね?」

「うん。まあ…、追川さんはさ、建田さんが濡れ衣だった薬物の起訴事実を敢えて受け入れたことでの交換条件みたいなものを、相和会側が了解したって読んでるんだ。要するに、建田さんが刑務所から戻った際の待遇というか立場というか、そういった諸々の条件面では合意に至ってるって」

「そうだよね。建田さんが嘘をついてまで起訴事実を認めたのは、自分が戻った時の立場を相和会に要求することが目的だったろうからね」

「その条件をやり取りする中で、剣崎さんは、ケイコちゃんとオレには手を出さないってことを承諾させてるはずだと思う。追川さんも、オレ達の偽証は剣崎さんらに導かれたと推測してるから、その上で、それらしい言い回しをしていたよ。だからね…。もっとも、オレのことを恨んでるのは消えないと思うけど…」

「うん、でもさ…、剣崎さんはアキラには自分が強要したって伝えてると思うな。私たちが事実を口外しなければ、あの人は私たちを守ってくれる。それは間違いないよ」

ケイコちゃんは首をひょっと長くして、熱弁調でそう言ってくれた

「そうだな、実際そうだしね、はは…。そこで、追川さんはそれ以外のことに気を付けなきゃってことなんだ」

オレがここまで話したところで、たぶんケイコちゃんは”それ以外のこと”が、だいたいは想像ついたんじゃないかな

とにかく肝心なことだ、これが…

これからの二人にとって