この愛に猛る/その16
麻衣
へー、この人が優輔さんの妹さんか…
撲殺人のいもうと…
わー、よくしゃべるし似てないって(苦笑)
「先程、お母様と親戚のお姉様にはご挨拶させてもらいました。麻衣さん、こんな兄ですけどひとつよろしくお願いしますね」
久里子さんという名の妹さんは、見かけ、本田多美代そっくりだわ
小柄の色黒で、張りのある心身ってとこがね
「あのさ、優輔さん、あなたと結婚したら年が9こも上の久里子さんって、私の妹ってことよね?」
「ああ、そうなるわな」
「私、嬉しいんだけど…」
「まあ、よろしく頼むよ、麻衣。他の兄弟二人からは、俺の”職業”を拒絶されてるからな。妹は唯一、俺を最低限でも理解してくれてる。今日だって、こっちは妹とおばの二人だけだよ、出席してくれたのは」
「ハハハ…、私の方はその上だよ。母一人だけだもん。だからさ、ミカ姉ちゃんがここにいてくれるの、百万の援軍得たくらいに嬉しい」
「麻衣…、お互いこんなに親族が少なくてもよう、なんか、全然寂しくねえや、俺。今日はいい一日だ。忘れねえよ、一生…」
優輔…
...
「…お母さん、一生残る写真なんだからさ、もっと笑わなきゃダメだって」
優輔さんと私がお母さんを間にした3ショット、これは私の宝物になる…
「ああ、司会さん、わしも麻衣ちゃんと写真撮りたいんやがなあ…」
「あのですね、今日は最後に皆さんをお見送りの際、ご希望の方には麻衣さんとツーショットで記念撮影をさせていただくことになっております。ですから、その際まで、お待ちいただけますか?」
「おお、そんなら、そん時にな。はは、こりゃ、楽しみやわ」
Mさんという司会者は、この筋に精通してるらしく、こういったやり取りは堂々としているわ…
ふふ…、これは剣崎さんの演出なんだよね
私をさっきのやり取りでクローズアップさせ、歓談の際、家族と写真を撮ってる絵柄をさりげなく皆さんに見せつけるってね
まあ、”この件”の主旨、事前に承知してるしOKよ、私は
...
「わー、五島の親分、わざわざいらしてくれてたんですか?」
「おお、麻衣ちゃんの晴れ姿はなんとしても、この目に収めないかんと思うてな、はは…。そっちこそ、この前はわざわざ二人で訪ねてくれて、すまんかったのう。まあ、しかしよう、麻衣ちゃん、ちょっとの間に、ますますいい女になりよったわい。アハハハ…」
この五島さんは、関東の田代組と友好関係にあったが、田代組長と兄弟関係にある東龍会坂内会長の今回のやり方には、あからさまに不快感を抱き、こちらから預かりをお願いしていた間宮の引き取りでも、相和会との信頼関係を貫いてくれたんだ
「なあ、倉橋君よう…。二人に子供ができたら、ぜひ名付け親にさせてくれんかのう」
「いいじゃない、優輔さん。親分さんがゴッドファーザーになってくれたら、その子、きっと大物になるわよ」
私がすぐに反応したら、五島の親分、”ガハハハ…”って豪快に笑ってるわ
優輔さんは、もうサラリーマンの社交辞令みたいに頭を下げて、汗ふいてるし
ああ、汗は私がね…(笑)
...
あれ…?
なんか、隣の優輔さん、急に構えちゃったぞ
「倉橋はん…、俺のこと、覚えておられますか?」
「…」
なんか、彼とその人、視線をじっと合わせて異様な空気が漂ってるな
ひょっとして…
...
「奥さん…、いや麻衣さん。…実は、あなたの心を射止めた倉橋さんの首に刻まれた痕を焼きごてで植えたのは、この俺なんです」
コイツだったのか!
3人の間の時間は一瞬、止まったわ
私はその人に、刺すような視線をぶつけていたよ
彼の首に一生消えないキズ痕を残したのは言うまでもなく、なにしろ、優輔さんを大勢でリンチした当事者だってのがね…
その時の目、婚約パーティーのヒロインを忘れて、ケモノに帰っていたかな…
...
「…野本さんでしたね、確か、北陸の…」
「ええ、やっぱりご承知だったんですね…」
「彼からは聞いていましたから。野本さん、せっかくです。優輔さんと一献どうぞ」
私は未使用のグラスを手に取り、その人の胸元に突きつけた
ピストルのように
「奥さん…」
「さあ、どうぞ…」
ドク、ドク、ドク…
ビールを二人のグラスに注いだ後、私は優輔さんにアイコンタクトを送った
彼は小さく頷くと、席から立ち上がったわ
「先程、助川の御大はあん時のことは、すべて終わりにしたと宣言されました。さあ、俺たちも、それを確認し合いましょうや、野本さん」
「倉橋はん…」
そうよ、あの時は互いに組織の人間として命を張ったまでのことだ
キーン…
その弾けるような響きは私の胸にずんと届いた
麻衣
へー、この人が優輔さんの妹さんか…
撲殺人のいもうと…
わー、よくしゃべるし似てないって(苦笑)
「先程、お母様と親戚のお姉様にはご挨拶させてもらいました。麻衣さん、こんな兄ですけどひとつよろしくお願いしますね」
久里子さんという名の妹さんは、見かけ、本田多美代そっくりだわ
小柄の色黒で、張りのある心身ってとこがね
「あのさ、優輔さん、あなたと結婚したら年が9こも上の久里子さんって、私の妹ってことよね?」
「ああ、そうなるわな」
「私、嬉しいんだけど…」
「まあ、よろしく頼むよ、麻衣。他の兄弟二人からは、俺の”職業”を拒絶されてるからな。妹は唯一、俺を最低限でも理解してくれてる。今日だって、こっちは妹とおばの二人だけだよ、出席してくれたのは」
「ハハハ…、私の方はその上だよ。母一人だけだもん。だからさ、ミカ姉ちゃんがここにいてくれるの、百万の援軍得たくらいに嬉しい」
「麻衣…、お互いこんなに親族が少なくてもよう、なんか、全然寂しくねえや、俺。今日はいい一日だ。忘れねえよ、一生…」
優輔…
...
「…お母さん、一生残る写真なんだからさ、もっと笑わなきゃダメだって」
優輔さんと私がお母さんを間にした3ショット、これは私の宝物になる…
「ああ、司会さん、わしも麻衣ちゃんと写真撮りたいんやがなあ…」
「あのですね、今日は最後に皆さんをお見送りの際、ご希望の方には麻衣さんとツーショットで記念撮影をさせていただくことになっております。ですから、その際まで、お待ちいただけますか?」
「おお、そんなら、そん時にな。はは、こりゃ、楽しみやわ」
Mさんという司会者は、この筋に精通してるらしく、こういったやり取りは堂々としているわ…
ふふ…、これは剣崎さんの演出なんだよね
私をさっきのやり取りでクローズアップさせ、歓談の際、家族と写真を撮ってる絵柄をさりげなく皆さんに見せつけるってね
まあ、”この件”の主旨、事前に承知してるしOKよ、私は
...
「わー、五島の親分、わざわざいらしてくれてたんですか?」
「おお、麻衣ちゃんの晴れ姿はなんとしても、この目に収めないかんと思うてな、はは…。そっちこそ、この前はわざわざ二人で訪ねてくれて、すまんかったのう。まあ、しかしよう、麻衣ちゃん、ちょっとの間に、ますますいい女になりよったわい。アハハハ…」
この五島さんは、関東の田代組と友好関係にあったが、田代組長と兄弟関係にある東龍会坂内会長の今回のやり方には、あからさまに不快感を抱き、こちらから預かりをお願いしていた間宮の引き取りでも、相和会との信頼関係を貫いてくれたんだ
「なあ、倉橋君よう…。二人に子供ができたら、ぜひ名付け親にさせてくれんかのう」
「いいじゃない、優輔さん。親分さんがゴッドファーザーになってくれたら、その子、きっと大物になるわよ」
私がすぐに反応したら、五島の親分、”ガハハハ…”って豪快に笑ってるわ
優輔さんは、もうサラリーマンの社交辞令みたいに頭を下げて、汗ふいてるし
ああ、汗は私がね…(笑)
...
あれ…?
なんか、隣の優輔さん、急に構えちゃったぞ
「倉橋はん…、俺のこと、覚えておられますか?」
「…」
なんか、彼とその人、視線をじっと合わせて異様な空気が漂ってるな
ひょっとして…
...
「奥さん…、いや麻衣さん。…実は、あなたの心を射止めた倉橋さんの首に刻まれた痕を焼きごてで植えたのは、この俺なんです」
コイツだったのか!
3人の間の時間は一瞬、止まったわ
私はその人に、刺すような視線をぶつけていたよ
彼の首に一生消えないキズ痕を残したのは言うまでもなく、なにしろ、優輔さんを大勢でリンチした当事者だってのがね…
その時の目、婚約パーティーのヒロインを忘れて、ケモノに帰っていたかな…
...
「…野本さんでしたね、確か、北陸の…」
「ええ、やっぱりご承知だったんですね…」
「彼からは聞いていましたから。野本さん、せっかくです。優輔さんと一献どうぞ」
私は未使用のグラスを手に取り、その人の胸元に突きつけた
ピストルのように
「奥さん…」
「さあ、どうぞ…」
ドク、ドク、ドク…
ビールを二人のグラスに注いだ後、私は優輔さんにアイコンタクトを送った
彼は小さく頷くと、席から立ち上がったわ
「先程、助川の御大はあん時のことは、すべて終わりにしたと宣言されました。さあ、俺たちも、それを確認し合いましょうや、野本さん」
「倉橋はん…」
そうよ、あの時は互いに組織の人間として命を張ったまでのことだ
キーン…
その弾けるような響きは私の胸にずんと届いた