この愛に猛る/その15
剣崎
この辺りから御大の声のトーンは明らかに上がった
「…我々の世界では過去、相和会とは、そりゃあ色々ありましたな。むしろ関東より、西のわしらとの方が、何かと取り込んでおったと思う。中でも万博ん時のケンカは最大規模でしたな。当然、当時和解は済ませておるが、どこかしこりのようなものは残ってるのと違いまっか?」
ここで館内は申し合せたようにクスクスと、苦笑が漏れた
「はあ、皆さん、思い当たるってこってすな。…今般、相和会と西が近しくなった折、こうして万博ん時に主役張った倉橋君の婚約を祝う機会を得ましたんや。今日のこの晴れの席で、すっきり、過去を洗い流したどうやろうかと思う。どうかな、皆さんの気持ちは…」
パチ、パチ、パチ…
「異議なし!」
「相和会とはきっぱり和解や!」
「そうや、そうや!」
「これは傑作じゃ。撲殺もんが仲人になるとはのう…」
”ガハハハ…”
あちこちから相槌やら掛け声が飛び交い、拍手と明るい笑い声で間をリズミックに埋めている
どうやら、五島組や新義友会の面々が率先して声を上げてくれているようだ
...
「剣崎よう、いいムードになってきてるんじゃねえか?なあ…」
矢島さんは手を叩きながら、俺をちらっと振り向き、白い歯を見せていた
「ええ。最高の展開になってますよ。助川の御大、見事に西の主だった御仁を引き込んでくれました」
正直、思い通りの状況に、俺は鳥肌が立っていたよ
更に御大のスピーチは続いた
「…ここにおられる諸氏の賢明な判断に、敬意を表したい。これからは世の中も大きく変わるさかい、ワシらの世界も今まで通りでは通用せん。今後はみんながそれぞれ、いい思いを分かち合って、協力姿勢を保たんとな。自分だけの理屈を押し通す時代遅れが惹起すれば、ここにいる我らで力を合わせることが大事じゃ。それを今日、みんなが理解し合えた。この記念すべき場を与えてくれた、相馬さんの真髄を真に継いだ倉橋君と麻衣さんに心から感謝し、二人の幸せを願って助川の挨拶は終いじゃ」
パチ、パチ、パチ…
大きな拍手と歓声を受け、助川の御大はゆっくりとスピーチ席から戻った
「助川様、大変心のこもったスピーチ、誠にありがとうございました。では、ここでしばらくご自由にご歓談ください」
ふう…、何とかひと山を越したな
場のモードはかなりいい
よし、俺も”次”に移ろう
...
「会長、俺はいろいろ回ってきます。能勢には申し合せてありますので、御仁方にはよろしくお願いします」
「ああ、承知した」
「なら、能勢、会長とご一緒しろ。約30分ってとこだ。配分はうまくやれ」
「はい。了解しました。では、会長、参りましょう…」
うん、能勢に任せておけば大丈夫だ
一方の俺は、親族に用意されたテーブル付近にいる、麻衣の母親の元へ歩いて行った
「ああ、お母さん、お疲れじゃないですか?」
「ええ。ミカさんがホテルの人にイスを用意してもらって、ずっと掛けていましたので」
「そうですか。では、中央に行って、麻衣さんと倉橋に声をかけてやりましょう。大丈夫ですか?」
「はい…。でも、いいんですか?みなさんがいらっしゃるのに…、麻衣に話しかけても」
「もちろんですよ。さあ、お母さん、ミカさん。行きましょう」
はは…、この俺もまるで、ホテルマンのエスコートみたいなマネ晒してるわ(苦笑)
...
「…麻衣、きれいだよ。よかったね、こんな多くの方にお祝いしてもらって…。優輔さん、この子をどうか、お願いしますね…。うっ、うっ…」
麻衣の母親は二人の間に立ち、後ろから覗き込むように麻衣にそう語りかけると、目頭にハンカチーフを当てて涙を拭っていた
「お母さん…」
麻衣と倉橋は椅子から立ち上がり、二人で挟み込むように、両脇からお母さんの体に手をあてがっている
なんとも心温まる光景だ
俺とミカは思わず笑顔を見あわせた
「おい!」
俺は待機させていた、写真撮影に詳しい若い組員を呼んだ
「倉橋、記念撮影だぞ」
俺はカメラマンに会釈した
「では…、まずお母さんを真ん中にお三人で撮りましょう」
”急造”カメラマンの誘導で、三人は何ともいい笑顔で並んだ
カシャッ!
「今度はミカさんを加えた四人でお願いします…」
その後、麻衣&お母さん、倉橋&麻衣のお母さんと続いた…
「それじゃあ、お母さん。今日は立食になっていますので、ミカさんと一緒に、遠慮なくいっぱい召し上がってください。飲み物は私がお好きなものを運びましょう。何がいいですか?」
「何から何まですみませんね。では、日本酒を冷で…」
おお、いきなり日本酒ってか…
さすがは麻衣のお母さんだ(笑)
剣崎
この辺りから御大の声のトーンは明らかに上がった
「…我々の世界では過去、相和会とは、そりゃあ色々ありましたな。むしろ関東より、西のわしらとの方が、何かと取り込んでおったと思う。中でも万博ん時のケンカは最大規模でしたな。当然、当時和解は済ませておるが、どこかしこりのようなものは残ってるのと違いまっか?」
ここで館内は申し合せたようにクスクスと、苦笑が漏れた
「はあ、皆さん、思い当たるってこってすな。…今般、相和会と西が近しくなった折、こうして万博ん時に主役張った倉橋君の婚約を祝う機会を得ましたんや。今日のこの晴れの席で、すっきり、過去を洗い流したどうやろうかと思う。どうかな、皆さんの気持ちは…」
パチ、パチ、パチ…
「異議なし!」
「相和会とはきっぱり和解や!」
「そうや、そうや!」
「これは傑作じゃ。撲殺もんが仲人になるとはのう…」
”ガハハハ…”
あちこちから相槌やら掛け声が飛び交い、拍手と明るい笑い声で間をリズミックに埋めている
どうやら、五島組や新義友会の面々が率先して声を上げてくれているようだ
...
「剣崎よう、いいムードになってきてるんじゃねえか?なあ…」
矢島さんは手を叩きながら、俺をちらっと振り向き、白い歯を見せていた
「ええ。最高の展開になってますよ。助川の御大、見事に西の主だった御仁を引き込んでくれました」
正直、思い通りの状況に、俺は鳥肌が立っていたよ
更に御大のスピーチは続いた
「…ここにおられる諸氏の賢明な判断に、敬意を表したい。これからは世の中も大きく変わるさかい、ワシらの世界も今まで通りでは通用せん。今後はみんながそれぞれ、いい思いを分かち合って、協力姿勢を保たんとな。自分だけの理屈を押し通す時代遅れが惹起すれば、ここにいる我らで力を合わせることが大事じゃ。それを今日、みんなが理解し合えた。この記念すべき場を与えてくれた、相馬さんの真髄を真に継いだ倉橋君と麻衣さんに心から感謝し、二人の幸せを願って助川の挨拶は終いじゃ」
パチ、パチ、パチ…
大きな拍手と歓声を受け、助川の御大はゆっくりとスピーチ席から戻った
「助川様、大変心のこもったスピーチ、誠にありがとうございました。では、ここでしばらくご自由にご歓談ください」
ふう…、何とかひと山を越したな
場のモードはかなりいい
よし、俺も”次”に移ろう
...
「会長、俺はいろいろ回ってきます。能勢には申し合せてありますので、御仁方にはよろしくお願いします」
「ああ、承知した」
「なら、能勢、会長とご一緒しろ。約30分ってとこだ。配分はうまくやれ」
「はい。了解しました。では、会長、参りましょう…」
うん、能勢に任せておけば大丈夫だ
一方の俺は、親族に用意されたテーブル付近にいる、麻衣の母親の元へ歩いて行った
「ああ、お母さん、お疲れじゃないですか?」
「ええ。ミカさんがホテルの人にイスを用意してもらって、ずっと掛けていましたので」
「そうですか。では、中央に行って、麻衣さんと倉橋に声をかけてやりましょう。大丈夫ですか?」
「はい…。でも、いいんですか?みなさんがいらっしゃるのに…、麻衣に話しかけても」
「もちろんですよ。さあ、お母さん、ミカさん。行きましょう」
はは…、この俺もまるで、ホテルマンのエスコートみたいなマネ晒してるわ(苦笑)
...
「…麻衣、きれいだよ。よかったね、こんな多くの方にお祝いしてもらって…。優輔さん、この子をどうか、お願いしますね…。うっ、うっ…」
麻衣の母親は二人の間に立ち、後ろから覗き込むように麻衣にそう語りかけると、目頭にハンカチーフを当てて涙を拭っていた
「お母さん…」
麻衣と倉橋は椅子から立ち上がり、二人で挟み込むように、両脇からお母さんの体に手をあてがっている
なんとも心温まる光景だ
俺とミカは思わず笑顔を見あわせた
「おい!」
俺は待機させていた、写真撮影に詳しい若い組員を呼んだ
「倉橋、記念撮影だぞ」
俺はカメラマンに会釈した
「では…、まずお母さんを真ん中にお三人で撮りましょう」
”急造”カメラマンの誘導で、三人は何ともいい笑顔で並んだ
カシャッ!
「今度はミカさんを加えた四人でお願いします…」
その後、麻衣&お母さん、倉橋&麻衣のお母さんと続いた…
「それじゃあ、お母さん。今日は立食になっていますので、ミカさんと一緒に、遠慮なくいっぱい召し上がってください。飲み物は私がお好きなものを運びましょう。何がいいですか?」
「何から何まですみませんね。では、日本酒を冷で…」
おお、いきなり日本酒ってか…
さすがは麻衣のお母さんだ(笑)