この愛に猛る/その13
剣崎



「…ある日、優輔さんの肩を揉んでいた麻衣さんは、左首筋にあった火傷の痕を目にします。麻衣さんは彼にその火傷の件を尋ねることはしませんでしたが、後日相和会の幹部の方から、その火傷のいきさつを聞き、ここにお越しの多くの皆様がご承知の、”あの一件”を知ることになります…」

ここで西の連中は、万博抗争のあのリンチ事件を記憶から甦らせたに違いない

まあ、連中の反応はまちまちだった

思わず表情を硬くする者、苦笑いする者、隣の業界仲間に耳打ちして”その話”を交わす者…

二人のストーリーは、会場に流れるスロータッチのBGMに乗り、司会者の滑らかな語り口でさらに先へと進んでいった


...



「…その火傷を負った経緯と一部始終を知った以降、麻衣さんの心に変化が起こりました。彼の首筋を見ると、頬を寄せたくなる衝動に駆られ、心がときめく自分に気付いたそうなのです。そして、優輔さんのその首筋に恋心を抱くようになりました。麻衣さんは、彼を首筋から愛したのです…」

はは…、関西の皆さんは脚色と思ってるようだが、これは実際事実だしな

「…肩もみの度、そんな彼女の熱い視線を首筋で受けているうちに、優輔さんにも麻衣さんのいじらしい想いが伝わっていき、彼も次第に麻衣さんを愛おしい存在と捉えるようになりました。そしてそれは、年が離れていながらも、一人の女性として愛する気持ちに変わっていったのです…」

徐々にBGMがアップテンポになっていってるわ

「…麻衣さんの方も、首筋から始まった彼を愛する気持ちが優輔さんのすべてに至るまで、さほど時間はかからなかったようです。そしてこの夏の終わり、お二人は年の差を超え、様々な支障を乗り超え、共に生きる決意を確かめ合い、今日の晴れの日を迎えたのです!」

ここで司会者は力強く語りを終えた

BGMも一気に音量が上がり、テンションの高い旋律が館内に響いている

パチ、パチ、パチ…

そして、一斉に拍手が沸き起こり、あちこちから様々な掛け声が上がった

「倉橋はん、麻衣さん、おめでとう!」

「おお、なんとお似合いなカップルや!」

「あの世の相馬さんも喜んでるでー!」

「今から二人のお子さんが楽しみや。どえらいベイビーが生まれるで、アハハハ…」

もう、会場内は拍手が鳴りやまず、笑いも出て場のムードはどっと盛り上がった

さすが関西もんは、こういったノリが際立ってるな(笑)


...


「会長、いい感じになってきてますよ…」

「おお、そうだな。今の馴初めは最高だったわ、ハハハ…。この後は来賓代表の挨拶だったかな…」

矢島さんは顔を崩していた(苦笑)

早くもこういったいい雰囲気に持って来れたことで、まずは一安心したってところだろう

「いえ、司会者が今の流れで、麻衣に振ります。まあ、面白い展開になりますよ」

「そうか?はは、麻衣がどんな反応を見せてくれるか、楽しみだな」

ここで司会者がしゃべり始めるようだ

さあ、どんどん盛り上げていってやる


...


「では、二人の愛の成立ちの原点とも言える、優輔さんの火傷が刻まれた首筋について、麻衣さんにお話を伺ってみたいと思います」

司会者がそう言い終わる前、中央の舞台で倉橋の左側に掛けていた麻衣へ、ホテルの従業員からマイクが手渡された

「…麻衣さん、優輔さんの火傷痕がある左の首筋は、ある意味、”彼自身”より先に好きなったということですが、今でも彼の体の中で一番好きなのは、その首ですか?」

「はい。彼の体はそれこそ頭のてっぺんからつま先まで全部丸ごと好きですが、火傷痕の首は私にとって特別な場所なんです。これからもずっと、別格で大好きなままだと思います。昨夜も旅館の部屋で、うつ伏せになった浴衣姿の彼をマッサージをしてたんですが、温泉から上がったばかりで、蒸気が立ち上がってる首の火傷痕見たら、なんか生き物みたいで…。体も触れてたせいか、もうムラムラしちゃって、夕食前に愛し合いたくなっちゃんですよ」

”ガハハハ…!”

会場内には、どっと爆笑が沸き起こり、もう凄い盛り上がりだ

「最高やで、麻衣ちゃん!」

「麻衣ちゃん、その後、教えてー!」

関西も面々も、テンションがますます上がってきてるわ(苦笑)


...


「それでは麻衣さん、その後のこと、聞いちゃっていいですか?」

「ええ。我慢できなくて裸になろうとしたら、私の母と親戚のお姉ちゃんが温泉から室に戻ってきたんですよ。ですから、夕食前にはお預けを”食いました”。でもその分、寝る前はいつもより燃えちゃって、彼の首筋見ながらいっちゃいました!」

”ギャハハハ!”

館内は耳が劈かれるほどの笑い声でどよめき、もはや麻衣の独壇場と化していた