この愛に猛る/その10
麻衣&剣崎




「…麻衣、そのウチのチンピラらしき野郎は、おおむね見当がついてる。内偵で浮かんだ3人から”聴取”して、組でもマークしてるんだ。俺たちが伊豆に入ってる間に小賢しく動きやがって…!」

「あのさ、もしかしたら、そいつって…」

「おそらくな…。バカは死ななきゃ治らねーってことか…。剣崎さんには今連絡しとこう」

”明日”を巡る惹起は、都県境のチンピラ・コネクションでもなのか…


...


優輔さんは、明石田親分の私邸にいる剣崎さんと10分弱電話で話していた

浴衣姿でサングラスはかけていなかったが、撲殺人は仕事モードだったわ

「剣崎さん、何て言ってたかしら?」

「ああ、あの人も主だったモンが伊豆に出張るって間も下っ端どものマークは怠りなかったんで、ネタは上がってたよ。そっちのネタとは、おそらく同一のライン上だろう…」

「じゃあ、こっちでのリアルタイムの動きと連動して、東龍会は大打一派と暗躍ね」

「まあ、そんなところなんだろうが、アニキと叔父貴のところでは、今日すでに西からの御仁らと2、3の接触はあったようだし、時々刻々で読み込んでるよ。いろんな背景と今後の展開をさ。ああ…、ガキ界隈の様子は、麻衣に引続き頼むと言ってた」

「わかったわ。大打は伊豆から戻ったら、私に対して何らかのリアクションを起こす。この前のヤツからはそう感じ取れたし、今はそこに向けて動いてるはずよ」

「要は明日を経た西の論調を受けて、関東のてっぺんが下す判断だ。それに従って、東龍会の行動が方向つけられる」

「そこから、大打に降りてく訳ね。仮に強硬路線、敵対路線を鮮明にってことなら、ヤツは自分でも言ったとおり、一切躊躇なしで実行するわ」

「うん…、とにかく明日だ。アニキらはかなり手の込んだ演出を考えてるらしいから、俺たち二人はそれに沿って、うまくやろう」

「ええ、その辺は気合い入れてやるから。はは…」

撲殺人はフフフって、公私ごっちゃな笑顔だった

夜、12時ちょっと過ぎ、私たちは濃密に愛し合った後、眠りについたわ



...



「…そうか。麻衣には参考になったと伝えてくれ。それと、今後も頼むとな…」

「剣崎、なんかあったのか?こんな時間に…。今頃、倉橋と麻衣は抱き合ってる頃かと思っていたが…」

倉橋からの電話を切った後、ブランデーを嗜んでいた明石田の叔父貴がジョーク交じりだったが、何事かと気になってる様子だ

俺は能勢の隣のソファに戻り、話の内容を告げた

「ほう…、麻衣にはいつもながら感心するわ。あの年頃の娘ならよう、明日は主役でお披露目を控えてるんだし、母親とも一緒の旅行気分で浮かれちまってるだろうに、倉橋と乳繰り合う時間も惜しんで自分のルートに情報の確認か。ハハハ…、大したタマだ」

叔父貴はご機嫌だわ





「…とにかく能勢、泳がせて正解だった。マークした通りだぞ。こっちから戻ったら即、手を打つ。いいな」

「はい。しかし、親分…、全く何を考えているんですかね、野郎らは。俺あたりには理解できませんよ。第一、一人はもう痛い目に遭ってるんですよ。その後どうなるかなんて、わかりきってるでしょうに…」

「おい、それって、倉橋のとこの例の野郎か?」

「はい、それともう一人です。先般の内偵で挙がった3人の若いもんをこの能勢が絞り上げて、マトが二つ浮かびまして…。3人を使って監視してたんです。で…、案の定でした」

「ならよう、そいつらが、東龍会の飼ってるガキだかチンピラに、あることないことベラベラしゃべっちまってるってのか!」

「叔父貴…、情けない話ですが、奴ら井戸端会議感覚です。結局、テメエの口から出たネタは、こっちの縄張りを狙ってる東龍会に垂れ流しですよ。そのネタを更に毒入りでアツ化粧させて、またこっちに垂らし込んでくるんです。間宮がどういう目に遭ったか、こっちが見せつけてやっても、ヌカに釘ですわ」

「能勢…、奴らのおしゃべり相手は、下っ端の自分を唯一、チヤホヤ持ち上げてくれるんだ。いい気分になって、軽い世間話のノリなんだよ。俺だって信じられんよ、この世界ではな」

叔父貴はグラスを片手に時折小さく頷き、俺と能勢の会話には、聞き流すかのようだった

明石田の叔父貴には、この手の関連を繰り返し何度も伝えてきたので、今ではさして驚かなくなった(笑)


...



ただ、明日も西との折衝が重なる訳だし、”懸念”の認識だけは、もう一度念押ししておこう

「連中はこれらを巧みに材料として、明日の集まりに合せ、西の御仁方に例の懸念へ誘導にって腹です。叔父貴、ひとつ頼みます」

「ああ、わかってる。矢島には”その意識”で西に取り持つ…」

うん、叔父貴は大丈夫だ…