この愛に猛る/その9
麻衣




伊豆半島南端に位置する海一望の旅館に着いて、私達女3人は、さっそく温泉につかった

夕暮れ時の海を見渡しながら湯につかって、何とも至極のひと時だよね

「さあ、そろそろ出ようっと。お母さんも、いい加減のぼせちゃうから、もう出た方がいいよ」

「私はもう少し、つかってくよ。せっかくだもの…。温泉なんて10年近く入ってないからね。ああ、気持ちがいいよ、最高よ…」

「麻衣さん、お母さんと私はもう少しゆっくりして、一緒に出るわよ」

「そうですか。じゃあ、私は先に部屋戻りますね」

まあ、お母さんと旅行とか温泉なんて、小学校の時以来だもんね

気が済むまで海見ながら、満喫してね、お母さん…


...



「…麻衣、早かったな。ひとりか?」

「うん。お母さんとお姉ちゃんは、もう少しふやけていたいらしいから、ごゆっくりって先に出てきちゃった(笑)優輔さんも早かったね…」

「ハハハ…、俺なんかは烏の行水だよ。能勢もひとっ風呂浴びて、さっき発ったわ」

「そう…。能勢さんにも、食事は一緒してもらいたかったな。ずっと運転だったし…」

既に、テーブルには、料理が運ばれていた

刺身やら天ぷらやら漬物やら、ごちそうがてんこ盛りだよ…

「まあ、食っちゃえば飲みたくもなるしな。叔父貴んとこでも結構なもん出るだろうから、その方が気が楽さ」

「あなたも、そっちの方がよかったんじゃないの?女三人とじゃ、堅苦しいでしょうよ」

「いや、たまにはこういうのがいい。ガラじゃないが、こんなに気分がリラックスしたの、ホント久しぶりなんだ」

浴衣姿で横になりながら、こんなにのんびりくつろいでる撲殺人の姿って、初めて見たかな…


...



「麻衣…、明日は頼むな。婚約披露と言ったって、実際は相和会のセレモニーだ。俺は組の為だと割切ってるが、お前にはな…。そういうのは、ちゃんと内輪主体でやるのが女としては願いなんだろうけど…」

「ううん、私はそういうの全然固執してないよ。むしろ明日のセレモニーなんかに、結構ときめいてる。誰でも経験できることじゃないしさ」

「はは…、お前らしいな。俺としては助かるわ」

「それにさ、お母さんなんかは、こんな大勢の人に娘を祝ってもらえるなんてって…、単純にそれだけで感激しまくっちゃうよ、きっと(笑)。まして、旅館で一泊できて温泉入ってさ、みんなでごちそう囲んで、もう夢心地状態よ、あの人(苦笑)。さっきは海岸歩いて、鼻歌まで歌ってんだもんね。…優輔さん、今日はありがとうね」

「…俺も楽しんでるからいいんだって、麻衣。剣崎さんからはよう、今日は存分に水入らずでゆっくりしろってこったしな、ハハハ…」

「じゃあ、久しぶりにマッサージやるよ!」

「おー、そうか…。温泉から出て、麻衣のマッサージなんて最高だ。ひとつ頼む」

私はさっそくうつ伏せの優輔さんに乗っかって、モミモミを始めてね…(笑)


...



「よく、ヒールズのカウンターで肩揉んでもらったよな。麻衣には…」

「私さ、あなたの首の火傷痕を見ながら、肩モミモミするの好きだったんだよね。なんか、変に気持ちが昂るっていうか、優輔さんの”そこ”が愛おしいって感じが湧きあがってきてさ…」

ああ…、なんか、今日もこの”首”見て体が触れたら、ムラムラしてきちゃったよ

夕飯前に、一発誘うか!

と思った途端ドアが開いて、あの二人、割と早く戻ったわ

ちぇっ、隣の部屋行ってりゃよかったわね…(苦笑)


...



「…もしもし、ああ、真樹子さん?…うん、今旅館の部屋で、寝る前よ。ええっ…?そう、撲殺くんと一緒。今、タバコ吸ってる。…いやだー、エッチなこと言わないでよ…」

ベッツの真樹子さんに、部屋から電話してるんだけど…

「そんで、どう?何か変わったことないかしら」

「今んとこはね、特段ないわ。いや、そう言えば…」

「何…?」

「うん、あくまで又聞きなんだけど、相和会の組員らしき若い男と、大打に近い連中が会ってる現場が目撃されたって」

「真樹子さん、それ詳しく教えて」

「ええ…。あのね…」

なるほどね…

これは明らかに、伊豆での席が終わった後を睨んでの動きだわ

私はその後、アンコウ先輩にも電話して、”その件”をカマかけてみた

そしたら、アンコウの元へもそれに近い情報が入っていた

「…まあ、傍から見たら不良とチンピラの他愛もない会話にしか見えないけど、こういう構図はさ、そのもたらす意味は深いようにも思えるしね。チェックは心がけてるよ。アンタらが伊豆に赴く時期ってのも、何か重なるもんが無きにしも非ずだろうよ、麻衣…」

うん、言えてるわ

よし、撲殺人には伝えるぞ…