その5
剣崎



それから5年の歳月が流れた…

”あれ”以降、ミカはK国からU国へ渡り、そして中東諸国を周っていたようだ

結局、相和会で手配した人間のガードは約1年で切り上げとなった

これは当のミカからの強い要望によるものだった

彼女からすれば、いつまでも相和会に面倒をかけたくないという気持ちからだったんだろうが…

北東アジアに出た後のミカは、俺に話していた”計画”とは違った生き方を歩んでいったようだ

役者になる夢は捨てていなかったと思うが、見知らぬ海外で一人、生きぬいて行くための手段を得ることの方が当面の課題として重くのかかっていたからだろうよ

そこで、彼女は銃を習ったらしい…

...


幸い、あっちの地域は民族紛争やら部族間の対立やらが絶えずで、ゲリラ部隊が散在している環境下だったこともあり、割とすんなりそれは叶ったようだ

しかし彼女は、その腕を磨くことで、雇われの殺し屋稼業への道を模索していくことになった…

無論、それで報酬を得ることは生きるための手段として割り切り、言わば銃の腕を仕事に活かしたという見方になるが…

加えて、逃亡の身の自分に”敵”の手が及ぶ可能性も否定できず、その際の護身という動機もあったのだと思う

そしてその間、ミカがずっと心に誓っていたこと…

”それ”を、彼女が日本から出て5年後、俺達は知り得ることになるのだが…


...


秋も深まって、紅葉シーズンが始まったある日…

九州に在住していた、旧知の間柄である”業界”OBのH氏から連絡があった

何でも腕効きのヒットマンが仕事を探しているということで、相和会で雇ってみないかと打診してきたんだ

で…、紅葉が見ごろな熊本城に観光がてら来たらいいと…

ちょうど俺は、関西方面の関係者が入院している広島の病院へ見舞いに行く日程を調整していたので、その行程に合わせて九州まで足を延ばすことにしたよ

その2週間後…、俺は熊本に入った