『どういうつもりだ?』

『何が?…なんて言うのは時間の無駄だね。聞いたと思うけど、僕は元々、ナナミちゃんのことが好きじゃない。』

『薄々だがその予感はあった。もうそれはいい。振るタイミングだ。なぜ今なんだ?なぜ誕生日会なんだ?俺が告白するのも知っていたはずだ。』

『その通り、知ってたよ。』

『だよな?ナナミがお前を…。ちゃんと好きなことも知っていたはずだ。狙って…。悪意を持って…やったとしか思えない。』

『…ナナミちゃんが許せなかったんだ。僕はね、全部分かっていたんだ。』

『分かってた?』

『カナメくんがナナミちゃんを好きってことも。ナナミちゃんの恋をカナメくんがサポートしてることも。』

『…。』

『酷くないかな?好きな人の好きな人への告白に、協力させられるなんて。地獄だよ。』

『…俺の為にってことか?』

『そうなるのかな?現にカナメくん。しばらく心を壊していたじゃない。知らない間に復活していたけど。』

『…そうだな。』

『ナナミちゃんにやられたんだ。僕は許せないよ。…大切な友達を傷つけられて。』

『そうか…。それなら、なぜナナミと付き合う必要があった?お前の誕生日の時点で、酷い言葉で振れば良かった。』

『ナナミちゃんには傷ついて、苦しんでほしかった。何にも知らないフリして…。本当は気づいているのに。めーちゃん、めーちゃんって言って甘えて…。苦しめて…。』

『…。』

『3人でいたい!…なんて虫の良いことを言って。おかしいでしょ?だから…。付き合って信頼を得て…。最高の状況で最低な言葉で振る。これが僕の計画。』

『…。』

『付き合ってる最中、カナメくんのことでなじるのは楽しかったよ!めーちゃんといるのは普通なのとか言ってさ!なに言ってんだよ!普通って…。普通ってなんだよ!』

『…。』

『僕達は傷ついているのに、あの子だけ傷つかないのはおかしいよ!』

『…お前の言い分は分かったよ。別にイクヤを責めたい訳じゃない。だけどさ…。ひとつだけ教えてくれ。』

『大好きなナナミちゃんを傷つけられて、もっと怒るかと思っていたよ。何かな?』

『どうして…。どうしてお前はそんなに苦しそうなんだ?なんで泣いてるんだ?苦しそうだから。泣いているから…。』

『…!』

『俺は…。イクヤを責めることなんかできない。他に理由があるんじゃないか?』

『何…言ってるの…?』

『気づいてないのか…?お前…さっきからずっと泣いてるぞ…?』

『これは…。違う…。』

『何が違うんだよ?俺にはイクヤが嘘をついてるようには見えない。別の理由があるんじゃないかって思ってる。』

『違う…!』

『…さっき、僕達は傷ついているのにって。僕達ってはっきり言ってたじゃねーか!一体、何に傷ついていたんだ…?』

『…。』

『それにナナミのこと。そこまで嫌ってはないんだろ?』

『…なんで?』

『イクヤがナナミにあげた花束。あれは確かカランコエって花だよな?ナナミの誕生花のひとつ。誕プレを悩んでる時に調べたからさ。知ってんだよ。』

『違う!花束をもらったから適当に返しただけで…。』

『あの花の花言葉ってさ。たくさんの小さな思い出…らしい。』

『…。』

『…お前が元々ナナミを好きじゃなかったのは本当かもしれない。だけど、付き合うようになって、アイツの良い所も見えてきたんじゃないか?』

『ちが…う…。』

『ナナミのくだらない話、おもしろいからな。こじ付けかもしれないけどさ。…小さな思い出が増えたんじゃないか?』

『…。』

『俺も…。俺だってイクヤが好きじゃなかったよ。ナナミの好きな奴だったから。頭も良くて料理もできて最悪の恋敵だ。嫌いになりたかったよ。』

『…。』

『でもさ…。一緒に遊んでるうちに…。優しかったり。おもしろかったり…。少しずつ好きになってたよ。俺も同じだよ…。同じなんだよっ!』

『…同じ?同じなんかじゃない!』

『え…?』

『同じじゃない…。根本が違うんだよっ!』

『どういう意味だ?言わないと…。一生分かんねーままだよ!』

『…好きなんだよ。カナメくんのことが…。ずっと…。』

『…えっ?』

『別に男の子が好きな訳じゃない!女の子が好きなはずなんだよ!お…女の子にたくさん触ったし!現にナナミちゃんともね!』

『…。』

『知ってる?いや、カナメくんは絶対に知らないか!ナナミちゃんってね、背中に大きなホクロがあるんだ!そこを押すと嫌がるんだよ!太ももにもあるんだ!あはははっ!』

『…。』

『ははっ…。は…あはは…。ううっ…。でもね…。好きになった相手が偶然…。男の人だった…。』

『イクヤ…。』

『ただそれだけのことで…。カナメくんだけが特別で…。特別で…。特別で…。気持ち悪いだろう!?』

『…。』

『…まさか僕にそんな目で見られているとは、思わなかったでしょ。驚いた?ナナミちゃんじゃなくて、ほんとはカナメくんとシたかったな!あははっ!』

『…。』

『…僕がナナミちゃんをあんな風にした理由はシンプルだよ。嫉妬。それ以外の何ものでもない。』

『そうか…。』

『僕のモノにならないなら、誰かのモノにもならないでほしいって。』

『イクヤ…。』

『このタイミングでナナミちゃんを振れば、カナメくんは告白どころじゃなくなる。告白も阻止できて、ナナミちゃんを傷つけることもできる。一石二鳥だよ。』

『…。』

『そう…。嫉妬しただけ…。逆恨みしただけだよ!僕が誰よりも知ってるよ。ナナミちゃんが良い子ってことは。』

『…。』

『だってさ…。僕は…。ずっとナナミちゃんになりたかったから!』

『はは…。なんだよ…。俺達、やっぱり同じじゃねーか。』

『…どこが?』

『俺もイクヤになりたかったんだよ。』

『…!』

『こっそり料理の練習もした。そういうことじゃないって気づいてからはやめたけどな…。おかげで今となっては、ファミレスのキッチンのエースだ!はははっ!』

『カナメくん…。』

『馬鹿だよな、俺達。憧れて…。嫉妬して…。好きじゃなくて…。なのに…。こんなにも好き同士で…。』

『…全てを曝け出せてよかったのかもしれない。やっと…。幼なじみとかそういうのじゃなくて、本当の友達になれたね…。』

『…そう…だな…。』

『だからこそ…。もう一緒にはいれないね。3人でも2人でもダメだね。』

『…。』

『すべてを知ってしまったから。純粋に楽しいだけの関係でいるのはもう…。』

『イ…クヤ…。』

『カナメくんなら分かるよね?自分の手が届かない人と…。一緒にいる…。痛み…。』

『…うっ…うううっ…。そう…だな…。』

『…もし街で見かけても、他人…だから。』

『他人…か…。』

『…ごめん。最後にふたつだけ。一生のお願い。』

『ううっ…。おいぃ…。一生のお願いがふたつもあるのかよ…!』

『ひとつはこれをナナミちゃんに渡して欲しい。今日、買って来たんだ。これで本当にお別れって気持ちを込めて。』

『分かった。これだけ渡して俺ももう…。』

『ふたつ目は…。う…動かないで…?』

『動かない?わかっ…。んっ?』

『…。』

『…!』

『ごめん。ありがとう…。ごめんね…。でも、やっと夢にみてたことが叶った。本当に…。ごめんね…。』

『な、何回も…。あ、謝んなよ。こんなことでいいなら良かったよ。一生のお願いなんてもったいないくらいだ!ははっ…。』

『カナメくん…。』

『い、一応…言っておくとさ。ファーストのやつなんだよ。はっ…ははっ…。』

『…ごめん。』

『もう謝んなよ…!これ以上謝るなら。イクヤがテクニシャンだってこと。色んな奴に言いふらしてやる。』

『…分かったよ。もう謝らない。』

『それがいい。』

『うん。』

『うん。』

『…いつか時間が経って、傷が癒えたら…。また会えるといいね…。みんなで…。』

『そうだな…。俺達は…。俺達は…。何を…間違えたんだろなぁ…!』