何とか家の中に入れてもらい、玄関を通過して階段を上がった。

ナナミの部屋は2階だ。

そして、部屋の前に立った。

コンコン。

俺は部屋のドアを軽くノックをした。

『おーい、ナナミ。俺だ。カナメだ。開けてくれ!』

返事がない。

『おーい。寝てんのかー?』

もう一度呼びかけてみたが、返事はない。

ドアノブに手をかけた。

あれ?

開いてる?

カギはかかっていない。

やむを得ない。

俺はドアを開けた。

部屋の中に入った。

『お邪魔しますよ?…おい。ナナミ!』

なぜか。

ナナミが制服のまま床に座っていた。

座椅子の上で膝を抱えて、宙を眺めている。

学校には行こうとしたのか?

『おーいナナミ。どした!おい?おい!』

体を揺すったが、目が虚ろだ。

回りを見た。

特に異常はない。

強いて言えば、クラッカーの残骸が落ちている。

後は、ウサギのぬいぐるみと花束が転がっているだけだ。

違う。

花束は分からないけど、ぬいぐるみはイクヤがあげた誕生日プレゼントじゃないのか?

なんで床に転がっているんだ?

いや、この花も…。

『…め…ちゃん…。なに…して…るの?』

ナナミがやっと口を開いた。

俺は反射的に、至近距離まで駆け寄った。

良い匂いだ…とか思っている場合ではない。

『お前の様子を見に来たんだよ!何があった?イクヤと何かあったのか?』

ナナミは何も答えない。

『大丈夫かよ!?なぁ?』

俺はナナミの両肩を軽く掴んだ。

『あ…あ…。』

ナナミが少しだけ口を動かしている。

俺は肩から手を離した。

できる限り優しく、静かに言った。

『大丈夫だ。落ちついて話そう…!』

『いっ…くん…別れよ…って…。』

か細くて震えた声が、嘘みたいな音を発した。

別れよう?

どういうこと…だ…?

『元々…好きじゃない…って。冷たい…声でね…。』

『…。』

『ぜん…ぶ…嘘…。たくさんした…デートも…。キス…したり…触れ…合ったり…それも…う…ううっ…うそ…。』

『…ナナミ。』

近づいて気がついたが、目が腫れ上がっている。

声が全然出ないのは、一晩中、朝まで声を殺して泣いたせいだ。

制服のままなのは…。

昨日からずっと、この場所を動いていないからか。

心臓が痛い。

それでも無理やり言葉を捻り出した。

『ナナミ。最近さ。全然…顔を合わせなくて。心配かけてごめんな。信じてもらえるか分からない。でも、ここに必ず戻って来るから。』

『…。』

『だから。部屋のカギ…いや、窓のカギを開けておいてくれ。よろしく…な!』

ナナミは何も言わないし、微塵も動かない。

宙だけを悲しそうな瞳で捉えている。

俺は立ち上がり、ナナミから離れた。