『いらっしゃいませー。』

ナナミとイクヤが公園で会っている頃、俺はアルバイトをしていた。

高校の最寄り駅から4駅ほど離れた場所にある、ファミリーレストランで働いている。

現在の時間は17時を過ぎた頃。

平日とはいえ、夜はそれなりに忙しい。

今は店内にお客さんは2人しかいないが、もう少ししたら増えてくる。

忙しい方が俺としてはありがたい。

余計なことを考えたくはないからだ。

もう答えは出たのか…それとも…。

また余計なことを考えてしまっていると、店内にお客さんが入ってきた。

ちなみに俺は普段、キッチン側の業務をやっている。

ハンバーグやらお子様ランチやらを作る係だ。

しかし、ホールの人間がいないからごめんね、という店長の言葉により、ホール側の業務をやっていた。

夜になれば何人か他の従業員がやって来るので、交代できる。

それまでの辛抱だ。

『いらっしゃいませ。』

『あれ?カナメくんだ。』

1人で店内入って来たお客さんは、俺のことを見るなり、そう言った。

恐らく10代の女の人で、私服ではなく、部活動で使用する様なスポーツウェアを着ている。

左手首には赤いリストバンドをつけている。

詳しい名称は分からないけど、髪型はいわゆるショートカットだ。

大きな目が印象的で、可愛らしい人だと思った。

でも誰だ?

残念ながら、俺はあまり人付き合いに対して積極的ではない。

俺のことを知っているということは、同じ高校の奴か、中学校の同級生か、どちらかだとは思う。

覚えてもいないし、思い出せない。

一か八か、サトウかスズキか言ってみるか。

『…サトウさんだよね?』

『ひどーい。覚えてないんだ。去年同じクラスだったのに。』

その言葉を聞いて、頭をフル回転させた。

1年生の時のクラスメイトにこの顔の人間がいたかどうか。

苗字ではないが、なんとなく心当たりのある名前を思い出した。

『ごめん。リナ…さんだよね?』

『もう何百回と間違えられてきたから別にいいけど。あたしはリ・カ!双子なの!』

『あ…。ごめん。』

やってしまった。

確かに昨年、双子だというクラスメイトがいた様な気がする。

普段はキッチンの奥で仕事をしているから、知り合いに会うことはない。

申し訳ないことをしてしまった。

『あんまり関わり無かったから覚えてなくて当然だよね。もういいよ。生姜焼き定食ご飯大盛り豚汁で。あとミートスパゲッティ持って来て!』

『大変失礼致しました。すぐにお持ちします…。』

俺はすぐにテーブルへと案内して、その場を離れた。

クラスメイト達とはもっと積極的に関わった方がいいかもしれない。