いや、厳密にはふたりだけではなかった。
当然、ここにも護衛は何人か配置されているし、いつも俺から離れない侍従のカランは扉の向こうを伺って、タイミングがずれないように全神経をピリピリさせていて、こちらの方には注意を向けていなかったので、ふたりだけみたいなものだ。


怪しげな動きを繰り返すクラリスに尋ねても、
直ぐに返事をしない。
理由はわかってる。
俺に対して腹を立てているのだ、馬鹿な俺に。


「ダンスの時、左右どちらに付けていたら目立たないか、と確認したくて」

「あぁ、そうだな……」

ダンスのホールドでは、彼女の右手は俺の左手と繋がって少し上の位置。
左手は俺の右肩辺りに添えられるようになっていて。
どっちだ? 俺にはわからないので黙っておく。


「どっちでも一緒、ですわね」

「……」

「これは……このまま私がいただいてもよろしいのですか?」

「もちろん、貰って……」

「いただけるのでしたら、売り払って家出の資金にしてもいいでしょうか?」