「アグネス・スローン嬢、綺麗になられたね!
 ノイエから貴女の名前を聞いて、会いたくて久々に社交の場に出たよ」

4年ぶりに会ったかつての教え子は、14歳になり。
夜会用のドレスを纏って、美しく成長していた。


「ご無沙汰しております。
 先生も……素敵になられて」

「これが未だに苦しくてね」


ストロノーヴァ・イシュトヴァーン・ミハンは
そう言いながら、首元のブラックタイを緩めた。
今宵は春のデビュタントの夜会が、トルラキアの王城で開かれていた。


彼の甥のオルツォ・マルーク・ノイエの記念すべき夜。
甥のパートナーが、かつての教え子だと聞いて、久し振りにミハンは正礼装に袖を通した。


アグネスに会えるのも楽しみだったが、何より。
今朝、当代の祖父の所に挨拶にきたノイエから
『アグネス嬢が叔父上に会いたがっているが、
何かを相談したいのではないかと思う』と、聞かされていたからだ。