レイノルドは密かに国王陛下から呼び出され、
下知を下されていた。
それはリヨン王国へ行く前の話だ。
アシュフォードとカランを通さず、国王陛下の
子飼いから内密だと言われての呼び出しだった。


「辺境伯夫人を……
 夜会では目を離すなと、王弟殿下からも命じ
られております」


陛下から話せと、命じられたから。
緊張で乾いていた口を開いた。
レイノルドは、例の辺境伯夫人がアグネスに近付かないように、プレストン・スローンと共に見張っていてほしいと、アシュフォードから頼まれていた。
そして、それは今、重ねて陛下からも命じられて。


「アシュからはスローン侯爵令嬢に近付けさせるなと、命じられたのだろう?
 私の言う意味とは、反対だ」

アシュフォードは命令しない。
近付けないようにしてくれと、頼まれたのだ。
しかし、陛下からは命じられた。
反対? と言うことは……


「あの女が侯爵令嬢に近付いても、邪魔はするな」

「……」

「近付かないようなら、さりげなく誘導しろ」


さりげなく誘導、って。
レイノルドは耳を疑った。
それはつまり、弟の想いびとアグネスを危険な目に合わせると、いう……


「もちろん、スローンの娘を危険な目に合わせろと命じてはいない」

「囮、でしょうか」

レイノルドの言葉に陛下が、薄く笑った気がしたので、彼は後悔した。