「俺が君の顔をしていたら、1日の大半は鏡を
見て自分に見惚れているだろうな。
 本当に君は変わってる」

「……呪いの最後に、手鏡に姉にそっくりな自分の顔が映ったと言いましたよね。
 あの夜から、鏡で自分の顔を見られなくなったのです」


思わず立ち止まってしまった。
あの夜から鏡で、自分の顔を見ていない?


「3年もちゃんと鏡で自分の顔を見ていないの?
 いつもどうしてるの!」

「立ち姿くらいは大丈夫なんです。
 朝の用意でドレッサーの鏡の前でメイドが髪を整えてくれる時は目を瞑っています」



正直、病んでいると思った。
静かにゆっくりと。
アグネス・スローンは狂い始めている。
本人だってわかっているはずだ。
殿下は気付いていらっしゃらないのか?


もう殿下とは離れた方がいい。
人の想いはいつかは風化していく。
もう……ふたりとも楽になれよ。

その言葉をノイエは飲み込んだ。