半月後アグネスから、王弟殿下から今までの説明と謝られた事を聞かされた。

食堂で久しぶりに会ったアグネスは明るい表情をしていた。
彼女が通り掛かったので声をかけると、一緒に
ランチを取っていたエリザベートが席を外した。


「では、またね、マルーク様」

離れて行く彼女の後ろ姿を目で追うノイエの横顔を、アグネスは見ていた。
何も聞かないが、多分ノイエの気持ちはアグネスには、ばれているのだろう。


『マルーク様』と、捨てた名前で呼んでほしいとエリザベートにだけ、頼んでいた。
彼女は兄をミドルネームで『マルコ様』と呼ぶ。
『マルコ』と『マルーク』。
似ているようで違うのに、そこに縋ってしまったノイエだった。

今は『イシュトヴァーン』になった彼を、以前の名前で呼ぶ事に躊躇したエリザベートには、学院のなかだけで良いからと、話した。

好きだった名前だ、もう少しだけでいいから、と。
彼女が1年先に卒業するまで、その名で呼んでと約束をした。
ふたりだけで交わす最後の約束だった。



それでも、今では普通にエリザと時を過ごせる様になりつつあった。
兄と彼女の幸せを願えるようになった。

……人の想いは、いつかは風化していく。


 ◇◇◇


アシュフォード王弟殿下が帰国される前に、
デビュタントのドレスを発注した事を、アグネスから聞かされた。