「これは一時の感情で、言っているのではない」

押し黙る侯爵を説得しようと、俺は一心不乱に
言い募った。
クラリスの一言からの話の流れで、アグネスに
ついて俺は自分の気持ちを隠さずに言うしかなかった。


これもまたクラリスの企みに乗せられたような気がする。
『この女に言わされた』感が凄くある。
今日はこの話を切り出すつもりはなかったのだ。
 
俺は性格的にひとつひとつ片付かないと前へ進めない。
まず夜会。まずクジラ。
それらが片付いてから、アグネス。
そのつもりだった。


それなのに。
夜会のパートナーを受ける受けないの話から
アグネスの名前を出された父親は、途端に黙ってしまった。
姉は隣で涼しい顔をしている。
だから、この女は……
誰か、この女を止める人間はいないのか?