クジラについて、俺が聞いている話は。
つまらないものから身の毛のよだつ様な話まで
あって、やっていないのは人を殺すことだけ。


当然、父親のスローン侯爵は難しい顔をしていた。


「今からでも、王女の出席を断ることは出来ないのですか?」

「あちらからの申し出だから……」

「どうしてクラリスなのです?
 他にも自分で身を守れそうな女騎士を使うとか」

「……申し訳ないと思う」

大声を出したりせず、静かに俺に詰め寄る侯爵からは、面倒なことを押しつけてきた王族への怒りと断りきれない無念と、隣国に毅然とした態度が見せられない祖国への苛立ちが見えて。


「……アグネスです、お父様。
 皆であの子を守りましょう?」

クラリスがはっきりと口にした。
報酬を、などと話をしていたが。

クラリス・スローンはアグネスの為にこの話を受けたのだろう、とは感じていた。