やはり、ノンナはアグネスおばさんとは呼べないようで。
夕方、ネルシュ兄さんがお迎えに来て、ノンナは帰った。
次は帝国でのお話を聞かせてくださいと、お願いをして……




「お母様の頭のなかの声は、どうなったの?」

「ずっとうるさかったの、でも、それからは無視したのよ。
 本当の私がしたいようにする、言いたいことを言う、と心に決めて、要らない言葉に耳を傾けないようにして。
 頭が痛くても、自分を失わないように気を付けたの」

「今はもう、聞こえないの?」

「小さい声で聞こえる時もあるわ。
 貴女のお父様は女性にとても人気があるでしょう?
 お仕事で女性とお話をしているところを見たりすると、声がね、聞こえてくることもあるの。
 だけど、もう相手にしない。
 昔誓った言葉を、ずっと胸に言い聞かせるの」

「……」

「ヴェロニカ、その声はいつか、貴女にも聞こえてくるかもしれない。 
 でも、その時には……思い出して」

「……」

「それは、まるで呪文の様に……」


それは、まるで呪いの様な愛の誓い…… 
私も幾度も聞かされた誓い。


お母様の瞳は遠くを見ている様で。


今もまだ頭のなかで、囁く声が聞こえるのでしょうか。

胸が痛むことは、もうないのでしょうか。



─ 私は貴方が語る言葉と、自分自身の目で見た
 貴方の姿だけを信じます ─






  本編*おわり