午前中はピアノを弾きました。
母や姉が好きだった曲を何曲か続けて弾きました。
バロウズ出身の有名なピアノ演奏家がいらっしゃって、その方が今度リヨン王国で演奏会をされるというので、殿下にお誘いをいただいていました。

父から『婚約してからなら問題はないかと思いますが、その前には』と、釘を刺された殿下がお気の毒で。
『ごめんなさい』と、お伝えすると。
『演奏会は11月だから、それまでに君を今以上に一生懸命に口説かなきゃ』と、笑ってくださって。


本当に殿下はお優しくて、今まで一度も嫌な顔を私にはお見せにならない御方です。

……あの時の殿下の笑顔を思い浮かべてピアノを弾いて……
何だかおかしな気分になってきていました。
ふわふわと、浮いている様な感覚。

ピアノ室の天井辺りに別の私がいて、ピアノを
弾いている私を見ている。
休憩もせずに弾き続けているのが悪いのだと、
わかっていました。
それに加えて、命日の昼食会の為に色々と時間を取られていて、最近は疲れていました。

今日は大事な日なのに。
しっかりしなきゃと、自分を奮い立たせようと思いました。


もうすぐ昼食です。
父も兄も居ない平日の昼食はいつも簡単に食べられるものを私室に届けて貰っていました。
春から秋にかけて天気のよい日は、バルコニーに用意してと、レニーにお願いしていました。
残念ながら今日は雨なので、部屋の中で食べることになります。