アシュフォード王弟殿下はとてもお優しいひと
です。
それはわかっています。

初めてお会いした王城で。
私はほんの9歳の子供でしたが、この方の優しさは本物だとわかったのです。


誰もがそうお認めになるアシュフォード殿下の
紫の瞳が。
射抜くように、私を見つめています。


「これは……一体どういうつもりだ?」


掃き出し窓のカーテンを引いて、殿下は振り返られ。
私の姿をご確認なさって、こう仰せになったのです。
そのお言葉で私は我に返りました。


今日はクラリスの誕生日でした。
登城する父と兄を見送って。

父は私がアシュフォード殿下と結婚し、殿下が
公爵位を賜れば、財務大臣の地位を辞職すると
決められていました。

兄は既に外務へ誘われて、外交に必要な国際法務の末席に就かせていただいたと、毎日充実した日々を送られておりました。
ですから父は何の憂いもなく、職を辞する事が
出来ると嬉しそうによく語られていました。