「じゃあ、今アグネスはクラリスの部屋でひとりで居るんだな?」

アーサーが頷いた。
……今、何故か何人かの気配を扉の向こうに感じた。

それはあり得ない。
霊的な心配は要らないと、先生が言ったのだ。
それにもし、そうだとしても。
部屋の中にはアグネスが居て、俺は彼女の側に
行かなくてはならない。


扉をノックする。返事はない。
先より強めにノックする。当然返事はない。
俺の合図で、アーサーが胸ポケットから真鍮製のウォード錠を取り出して、俺に手渡した。
ノイエも何か感じているのか。
俺の手を押さえて、自分が先に中に入ろうとする。


それは駄目だ、君は決して巻き込まれないようにと、先生に命じられていただろう?
部屋に入っても扉の前から動かず、事のなり行きを見守ってくれていたらいいんだ。


ひとりでこの部屋に居るアグネスを思うと、本当は立ち会いたかった侯爵とプレストンに申し訳なく思った。
渋る侯爵に『俺の中にはアグネスしかいない』なんて言ったくせに、俺はアグネスの側を離れた。
ゲイルが居なければ、諦めてくれると思った。