そうだよな、びっくりするよな。
トルラキアって、すごいよな。
普通の人達が、それをするんだから。


「アグネスが、それを……
 しようとしているわけ……ですか?」

さすがは侯爵、冷静に受け止めたと、思ったが。
話し方が通常よりスムーズではなかった。


「今年が最後の機会なので、彼女に協力したい
のです。
 どうか、見逃していただけませんか?」

「……」

「いやいやいや、殿下、それは、ちょっと!
 あまりにも!」

侯爵が口を開く前に、プレストンが立ち上がって反対表明をした。


「これでわかりましたよ!
 今までの、アグネスのあの変な行動は!
 この、儀式の為だったんですね!」

力を入れて話しているが。
それは侯爵には内緒じゃなかったのか?
ここで話していいのか?


「今までの、って何の話だ?」

語るに落ちたプレストンを睨んで侯爵が尋ねたので、しまったと気付いた彼はよろよろと椅子に
座り直した。
ずっと父親に隠していた妹の奇行を、話す羽目になったプレストンはしばらく黙っているだろう。
丁度よかった。


どうして、そんな妖しいものにアグネスが拘っているのかを聞いて貰う。
侯爵は俺の話を最後まで聞いてくれた。
プレストンは何か言いたそうだが、我慢している。

アグネスがふたりの死に対して、責任を感じて
しまった事、
そこに至るまでの俺の失態、
それによって彼女を傷付けた温室での事。