「で、結局……今年はアグネスはしなかった?」

シュルトザルツの帝都ボーヘンのカフェで、大学帰りのプレストンと会っていた。
俺は先程聞いた話を、確認の為もう一度繰り返して尋ねた。
俺の問いにプレストンが頷く。
1月にプレストンから教えられたアグネスの奇行の話だ。
この秋、帰国したアグネスが姉の誕生日に、2年前と同じ行為をしたのか、それを知らせる便りが侯爵家の家令から着いたのだ。


「昼には一度部屋に入ったが、1時間以内。
 朝も夜も部屋には行っていません。
 その後は温室とピアノ室、庭園を散歩。
 私が覚えている限り、姉が好んでいた場所です」

温室か……俺には苦い思い出の場所だが、
クラリスの好きな場所だったとは知らなかった。
……初めて案内された温室で、俺は偽りを口にして、アグネスを傷付けたのだ。
彼女がそこを散歩したと聞いて、複雑な気持ちになった。


「やはり単に、偲んでいるだけ、なんでしょうね」

これが結論だと、決めつけた様にプレストンが
言い切った。
もしそうなら、俺からはアグネスには何も尋ねないと、決めていた。

彼女が彼女なりの方法で、クラリスの死を受け入れようとしているのなら。
姉の部屋で、時間がかかっても別れを受け入れようとしているのなら。
それなら俺は余計な口出しをせず、アグネス本人が納得するまで続けたらいいのではないかと、思ったからだ。